
第2回 DNPのサステナブル調達の現状
第1回では、企業責任がサプライチェーン全体へ広がり、ESGリスクを把握して説明する必要性が高まっていることを確認しました。第2回では、DNPの現在の取り組みの実態をご紹介します。
本来お話ししづらい内容ですが、同様の事象で課題を抱えている調達部門ご担当者と現場の悩みを共有することで、少しでもお役に立てることがあればと思い、お恥ずかしながらお話ししようと思います。
ガイドラインを基盤とする調達活動
DNPのサステナブル調達元年は2006年、独自の調達ガイドラインを作成したところから始まります。とにもかくにも、このガイドライン(現「DNPグループ サステナブル調達ガイドライン」)DNPのサステナブル調達の憲法であり、これを起点にあらゆるサステナブル調達活動が始まります。その第一がサプライヤーの皆さまにこのガイドラインの遵守状況を調査するアンケートです。
サプライヤー調査と改善
DNPは、年間購入額の上位90%を占めるサプライヤーや、事業継続上重要な取引先などを対象に、調査とリスクアセスメントを実施しています。
2025年度調査では、対象331社のうち285社が回答し、回答率は86.1%、総合平均スコアは85点でした。
手前みそながら85点はかなりの高得点です。サプライヤーの皆さまには感謝しかありません。

一方で平均点だけでは見えてこないことがあります。
最近の日経平均株価は好調を続けていますが、それを支えているのは一部のIT銘柄によるものであって、必ずしも全社一様に値上がりしているわけではないそうです。その構図に似て、サプライヤー調査も一部の優秀なサプライヤーが平均点を引き上げているだけの可能性もあるのです。この平均点を上げることは、会社で設定した目標の一つでもあり、サプライチェーン全体のレベルアップを図るには非常に大事な指標なのですが、本来のリスクを隠してしまう効果もあります。調達をサステナブルにするためには全体のレベルを上げるよりも、今そこにあるリスクをつぶし込むことの方が重要です。すなわち、低得点サプライヤーが抱えるESGリスクを無くすということです。
その低得点サプライヤーは中小企業であることが多く、ESG管理体制が整っておらず、専任担当がいることはまずありません。リスク是正を目的とした面談をお願いするにも、総務と経理と時には社長をこなしながらご対応いただくようなことが多いのが現状です。そのような状況で、回答頂いたアンケートで見つかったリスクの是正をお願いするのですが、そこまで手が回らない、そこまで費用が割けないと言われてしまいます。
日々の業務内容や人員体制をお聞きしながら、まず費用や人手のかからない対策をご紹介し、「リスクが無くなることは何よりも御社のためです」などと言いながら、社会や市場から求められるESG対応の重要性を説いて、なんとかご対応いただいています。その上でさらに大事なのは、お願いしっぱなしにしないことです。DNPでは前年低得点であったサプライヤー様には必ずアンケートをお送りし、その後の推移をフォローするようにしています。
サプライヤーの立場で
サプライヤーのみなさまのご苦労を実感するのは自分がサプライヤーの立場になるときです。
サプライチェーンの頂点に君臨しない以上、我々は常にバイヤーでありながらサプライヤーでもあります。弊社もESG評価機関、金融機関、顧客からアンケートを受けますが、サプライチェーンに関する質問は調達部門が回答責任部門になりますので回答依頼が回ってきます。
これらのアンケート回答で最も悩むのは、 “アピールか守りか”です。我々のサステナブル調達活動を積極的にアピールしたいのですが、後々問題が発生したときにその回答を理由に想定しえない請求を受けることも想定して、自由に表現しきれないことがあります。
特に直接取引のある顧客からのアンケートに対してはどうしても保守的な回答になりがちですが、自社の評価が必要以上に下がってもいけないので、当該アンケートの趣旨や性質を確認しながら、出来るだけ評価いただける回答を目指しています。
その点評価機関からのアンケートはエビデンスを付けて、その上で彼らが評価し点数付けするので、思い切り自由に回答できるのでポジティブな回答を作成し、提出しています。ただし、その設問数の多さには辟易します。
また、回答の仕方だけではなく、その負荷にも悩ましさを感じることがあります。実は弊社のアンケートの設問数は150問以上あります。上記の評価機関からのアンケートや、顧客監査で対応できなかったテーマ、法規制改定等に対応するために設問を加えていくうちに、こんな数になってしまいました。
さすがにこれは多すぎです。減らさなければならない。そうかと言って、増やすのとは異なり減らすのはとても大変です。どれも必要があったために追加した設問ですので、その必要性を再確認しながら統合・スリム化で設問数削減作業を進めている最中です。今年はサプライヤーのみなさまへのご負担を減らすことが出来そうです。
執筆者
田中 耕介
大日本印刷株式会社 購買本部所属。サステナブル調達とサプライチェーンマネジメントの実務に携わり、人権、環境、責任ある鉱物調達、GHG排出量、事業継続などに関するリスク管理を推進。サプライチェーンを価値創造の基盤へと変革する取り組みを進めている。1992年の入社以来、建装材、包装、出版、商業印刷など、幅広い製品分野の材料調達を担当。カード用ICチップの調達では、事業の立ち上げ段階から参画し、開発購買を推進した。2026年10月より調達業務改革に従事。