最終回では、データマネジメントを実践するために重要となるポイントを紹介します。データ戦略、実行体制、運用ルールの観点から考えていきます。
4. データマネジメントに取り組む上でのポイント
日本におけるデータマネジメントの普及・啓発・定着化を目指し、筆者が発起人として2011年に創設した一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)[4] は、約370社を超える企業・団体が会員として参画するまでに成長している。そのJDMCが出版している「データマネジメント概説書」[5]で、データマネジメントとは『データをビジネスに活かすことができる状態で継続的に維持、さらに進化させていくための組織的な営み』と定義している。つまり、何らかのツールを導入すれば完成するようなものではなく、「これをやればよい」という都合の良い方法論でもない。それらはあくまで「手段」に過ぎない。現場のデータの矛盾や不整合と向き合い、自らのビジネスや組織の付加価値を向上させるためにデータ・AIを活用していこうとする取り組みの総体が「データマネジメント」と認識すべきである。
そうした認識に立脚した上で、企業・組織はどうデータマネジメントに取り組むべきか。以下の図表のとおり、以下の3点の要素が成功のキーポイントとなる。(※④のIT基盤は、①~③の要件を満たすことが条件となる。)

(図表6)データマネジメントの4つの重要ファクター
① データ戦略の明確化(活用の目的を明確化すること)
まず「どのようにデータを活用して、誰に対してどのようなメリットをもたらしたいのか」という目的を明確化することが重要である。ともすると、「活用の目的が定まっていなくても、とりあえず“宝の山”であるはずの社内のデータを収集してAIで使ってみよう」といった安易な取り組みから着手する企業が多いが、これは最も失敗しやすいアプローチである。源泉となる業務システムから収集され、無秩序に蓄積された業務的な意味さえ定義されていないデータを誰が活用したいと思うだろうか。
たとえば、「SQLが書けない、データ構造に精通していない営業部門のビジネスパーソンであっても、AIを活用して、顧客企業との販売実績データと商談記録データをクロス分析して、受注確率の高いアップセル顧客セグメントを抽出したい」といった活用のニーズを明確化し、その活用のために対象となるデータ群が現状どのシステムにどのような状態で保持されているか、AIがデータの業務的な意味を理解するためのメタデータ(=データの意味を表すデータ)が適切に整備されているか否かをアセスメントすることが“はじめの一歩”となる。活用対象データの実態を把握した上で、それをどう統合・整備すれば目的とする活用が実現できるのかを明らかにすること、ならびに、このデータの改善に係る難易度や所要期間、コスト等を適切に見積もって計画を立案すること、この地道なプロセスこそがデータマネジメントの取り組みの成否を分けるといって過言でない。
ここで留意が必要なポイントとしては、既存のメタデータだけではなく、活用ニーズに係る領域の現状の業務システムに蓄積されている「実際のデータ」をアセスメントして現状とメタデータとの差異を把握することである。たとえば、「項目名が同じだったので複数のシステムからデータを連携して一つの項目に取り込んだが、実際には意味が異なるデータが入ってきて、有効な活用ができない」といった事態を招くことが多い。業務システムが設計された当時のメタデータが更新されておらず、「桁数が足りないから」、「項目が不足したから」といった已むに已まれぬ理由から、メタデータに定義されていないデータが悪気なく生み出し続けられていることが多い。メタデータの定義に合わないデータを与えると、AIがハルシネーションを起こすリスクが高まることを留意してほしい。
② 実行体制を整備すること
データ活用の目的を明確化し、現状のデータおよびメタデータの実態を把握した上で改善の計画を立案する際には、それを実行することができるデータマネジメント体制の整備が不可欠となる。また、データマネジメントの実行にあたっては社内の様々な組織のステークホルダーが関わることが必須となるため、体制の整備と合わせて、それぞれのミッション・役割分担を明確化し、組織間で合意形成することが重要である。
このとき、よくある誤った認識として、「データ基盤整備はシステム部門やDX部門に任せておけば良い」といった“他人事”で、ビジネス部門の関与が薄いケースがある。システム部門の「新しいAIツールを試してみたい」という意向からAIツール導入だけが先行して、データ活用の主体たるビジネス部門の積極的な関与がない場合、その取り組みはほぼ失敗するといってよい。
筆者が日本支部の理事を務めている、データマネジメントの国際的なNPO団体であるDAMA(Data Management Association)[6] が出版している知識体系-DMBOK(Data Management Body Of Knowledge)[7]では、「組織がデータに関する何らかの決定を下す際は、ITの魅力に惑わされず、それがデータにどのような影響を与えるのかを見極める必要がある。ITを先に決めるのではなく、事業戦略に沿ってデータ要件を決め、そこからITを決定する。」と述べられている。経営資源であるデータの生成・流通・蓄積・管理・活用に至るまでには様々な組織が介在し、「自組織のデータを生成・管理する者(データオーナー)」、「各組織のデータを全社的な視点で活用可能な状態に管理する者(データマネジメント・オフィス)」、「管理されたデータをビジネスに活用する者(データ活用者)」といったステークホルダーが関与している。このため、各ステークホルダーが相互に協力し合ってそれぞれのミッション・役割を担わなければ、最終的な活用の”果実(=ビジネス上の成果)”を得ることはできない。実行体制の整備とそのミッション・役割定義を組織的に行うことがデータマネジメントを成功させるもう一つのポイントである。
③ データマネジメントのルールを定めること
データ活用目的の明確化と実態に即した改善計画が立案され、それを実行する体制や役割が整備できたとしたら、いよいよ計画の実行フェーズに歩を進めていく。対象データの品質が活用の目的に適合していない場合には、そのデータを目的に適う状態に改善するためにデータクレンジング・統合等のデータ整備プロジェクトを遂行する。
この際に留意すべき重要なポイントとしては、データマネジメントは“一過性のプロジェクト”ではなく、“継続的なプログラム”として捉え、持続的に求められるデータの品質を維持し、さらなる活用のために向上させていく「ルール」を制定することである。「一度データを整備したら終わり」、「一度しくみを構築したら終わり」という姿勢では決してデータマネジメントは定着化しない。
データ改善計画が着実に実行され、ひとたび活用できる状態になったデータおよびメタデータであっても、それを継続的かつ適切に維持していくことが不可欠である。そのため、データならびにメタデータの運用管理ならびにデータ項目の新規発生や変更等に伴うルールや実施手順(データ品質や活用のモニタリング方法、発生した課題の改善に向けた解決管理方法、データのアーカイブおよび廃棄の方法、アクセス権限管理方法、インシデント発生時の対応方法、データ活用の上で遵守すべき利用ガイドラインなども含む)を策定する。
データ整備計画を実行すると、現実に発生しているデータの実情が把握できるため、この運用ルールに対してフィードバック・連携していくことが重要である。また、各種運用ルールに逸脱したデータの取り扱い行為や品質の悪いデータが頻出し、その状態が改善されないまま一定期間が経過した場合などにおいては、しかるべき是正措置を講じる旨をルール上に明記する必要がある。
5. 結び
ここまでAI時代だからこそデータマネジメントがなぜ必要とされるのか、データマネジメントの不在・不備により企業がどのような課題に直面しているのかについて考察し、それに取り組む上での重要ポイントを3つ提示した。最後に本稿の結びとして、総括を述べたい。
これまで個別組織の業務処理効率化を目的としてITが導入され、部分最適化したデータが散在している現状に目を背けてはならない。AIがまだ学習していない自社内のデータをAI Ready化し、既存の組織を超えてビジネスを駆動させるためには全社的なデータマネジメントに取り組むことが不可欠である。
一方で、IT/AIは否応なくさらに進化を続け、顧客やモノからのデータが爆発的に増えていく。また、クラウドやネットワークの進化により、大量なデータを扱うアプリやインフラは代替えが効くようになっている。しかし、いくら「器」であるITが進化しようが、その「中身」であるデータが人間にとってもAIにとっても理解できない状態であれば、活用できないことは自明の理である。企業・組織にとって代替えが効かないデータを経営資源として最大限に活用するために、日本のあらゆる企業・組織が可及的速やかにデータマネジメントへの第一歩を踏み出すことを願うばかりである。
*参照資料
[1] Society5.0時代のデジタル人材育成に関する検討会報告書を踏まえた検討状況について(経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 デジタル人材政策室[2026年4月13日])
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/society_digital/pdf/007_02_00.pdf
[2] 「データマネジメント人材の育成に関するタスクフォース」
https://www.ipa.go.jp/jinzai/skill-gakushu/data-management.html
[3] データマネジメント試験(仮称)シラバス
https://www.ipa.go.jp/shiken/syllabus/minaoshi/rcu1hd000001g4ri-att/syllabus_dm_ver0_1.pdf
[4] 日本データマネジメント・コンソーシアムのホームページ
[5] 「データマネジメント概説書V2.0~ビジネスとITをデータでつなぐ~」
https://japan-dmc.org/?page_id=200
[6] DAMA日本支部のホームページ
[7] 「データマネジメント知識体系ガイド第二版DAMA-DMBOK」
執筆者
大西 浩史
株式会社NTTデータバリュー・エンジニア 代表取締役社長
一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム[JDMC] 発起人 兼 事務局長
【略歴】
1994年4月
NTTデータ通信株式会社(現:株式会社NTTデータ)に新卒入社。資材・調達部門に配属、ソフト調達・サービス購買にかかわる契約・交渉・オペレーション業務等に従事。
1997年10月
自ら発案したデータマネジメント事業が社内ベンチャー制度に最年少で合格、新規プロジェクトとして始動。
2001年10月
社内ベンチャーを母体として、大日本印刷、SAPジャパン等を株主としたジョイントベンチャー-(株)リアライズを設立。(現:NTTデータバリュー・エンジニア)
国内大手の自動車/半導体部品/家電/鉄鋼/素材/食品/製薬/化学/文具・家具などの製造業、メガバンク/信託銀行/生損保/クレジットカードなどの金融業、小売・流通/EC業、通信/電力/ガス/交通等の公共インフラ業、メディア/サービス業、官公庁/教育などの公的機関まで、幅広い領域におけるデータマネジメント/データ活用の取り組みを約30年にわたりリードしてきた。
2011年3月~現在
一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム[JDMC]を発起人として創設。DAMA日本支部の理事。経済産業省・独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「データマネジメント人材の育成に関するタスクフォース」主査を務める。
