熱交換器診断システム会社立ち上げについて
第4回目は「内外作」の検討である。
用語の定義は、ともかく「内製か購入か」という内外作計画は、欧米においては、古くから“make-or-buy”として論じられてきたもので、特に、米国では内外作の基本方針が企業の経営戦略の最上位にランクされ、最高機密として扱われる傾向があったと言われる。
現在では、アウトソーシングとインソーシングという英語の方が読者には分かり易いだろう。前者は外部委託とも言われ、社外から仕入れることを意味し、後者は社内製造を意味する。
ここで、少し米国の自動車会社FORDフォードの話をする:
フォードは、創業期からT型フォードの大量生産期にかけて、コスト削減と効率化のために原材料の調達から部品製造、組み立てまでを自社で行う徹底的な内製化を進めていた。と言うか、周辺に産業が発達していなかったためそうせざるを得なかったのである。フォードの内製化の歴史として、T型フォードの登場の1908年から話すと、低価格な大衆車を大量生産するため、鋳造や機械加工などの工程を自社工場内に大きく取り込んだ。これは、のちに垂直統合の完成と言える。ミシガン州に建設された巨大なリバー・ルージュ・コンプレックスRiver Rouge Complexでは、鉄鉱石や石炭などの原材料から鋼材を作り、ガラスやゴムなども自前で生産・加工する、史上最大の垂直統合という完全内作システムを実現した。この垂直統合のモデルは、原材料の鉄鉱石や石炭などが片側から入り、完成した自動車がもう片側から出てくる、究極の垂直統合生産のことである。同社は、時代が進むにつれ、自動車の複雑化やコスト・リスク分散の観点から、多くの部品を外部の専門メーカー即ちサプライヤーから調達する水平分業・外部委託へと移行していくことになる。この事実を知ると、日本のトヨタ自動車の生い立ちとの決定的な差が分かる。トヨタは、創業から外部委託で三河地区周辺のサプライヤーを育成してきた。いわゆる組立て専門である。ところが、時が経つにつれてトヨタも力を付けてきたため、内作を検討しだした。これは、一つのリスクマネジメントであり、原価低減だとも言える。下図は内外作の検討でよく使われる比較である。残念ながら日本企業では購買部門が内外作検討のリーダーになったことが数少ないのは、会社全体で社外サプライヤーに依存する体質だったからではないだろうか。(The Henry Ford, 2025; The Henry Ford, n.d.)

画像出典:Chatgpt作成イメージ
トヨタとフォードの内外作の最大の違いは、「垂直統合による完全内製化(フォード)」、「系列(サプライチェーン)との協調・分散型外製化(トヨタ)」という思想の差であろう。トヨタは、サプライチェーンにおける「系列ネットワーク」を最大限に活用した一方で、フォードは、「完全内製」から、その後「アウトソーシング(外製)」へ移行した歴史がある。(Toyota Motor Corporation, 2012a, 2012b)

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下表に両者の違いを内外作の観点から示す。トヨタの強みは系列制度であり三河周辺に関連会社やサプライヤーを集め徹底的に教育した。俗にいう「育成購買」である。対照的に有名なのは日産自動車の「競争購買」である。トヨタは自社の品質と原価に合わせるべく部品会社を教育して品質水準を引き上げた。よく言われるサプライヤーを「叩く」のではなく、「育成」したのである。(Toyota Motor Corporation, 2012a, 2012c)
項目 | トヨタ自動車 | フォード・モーター | |
基本的な内外作 | 方針 | 分散型外製(系列制度) | 完全な垂直統合(内製化基本) |
内製化の目的 | 技術の不透明化防止、改善活動 | 原材料から完成車までの一気通貫 | |
サプライヤーの関係 | 長期的な信頼関係 | (デンソーやアイシン等) | 単発の価格競争や内製のための完全囲い込み |
部品の共通化・管理 | カンバン方式ジャストインタイム | 単一車種の超大量生産・大量在庫 | |
強み | 市場変化への柔軟性、多品種少量生産 | 規模の経済による圧倒的な低価格化 | |
リスク | 自然災害等によるサプライチェーンの寸断 | 需要変動時の過剰在庫 | 設備更新の難しさ |
トヨタは、歴史的に全ての部品を自社で作るのではなく、中核の技術や技術は、内製し、量産品は、信頼できる系列サプライヤーへ外注する方針をとってきた。
「2割内製」の原則: 完全に外注化すると社内に技術や原価の知識が残らなくなるため、容易な部品であっても最低2割は自社内に生産ラインを残す。
密接な技術指導: 外注先に対してただ発注するだけでなく、トヨタ生産方式をサプライヤーへ根付かせるための共同改善を行う。
戦略的内製: 近年でも、車の電動化や知能化に直結する半導体やバッテリー、モーターなどの重要基幹部品は、属人化や不透明性を防ぐため積極的に内製開発を進める。
一方、フォードの内外作特徴は、先に述べたように原材料から全てを内製化することである。20世紀初頭の「フォード・システム」は、外部への依存を徹底的に排除した究極の垂直統合であったのだ。 (The Henry Ford, 2025; The Henry Ford, n.d.)
ルージュ工場の神話: フォードを象徴するリバー・ルージュ工場では、鉄鉱石や石炭といった「原材料」を自社の船で運び込み、敷地内の製鉄所で鋼鉄にし、最終的に自動車として出荷するまでの全工程を自社内で完結させていた。
内製の理由: 当時は、自動車部品の標準化が進んでおらず、外部のサプライヤーから買うよりも、自社で専用の機械を用意して大量生産する方が品質が安定し、コストも劇的に抑えられた。
現代の変遷: 現代のフォードは、モジュール化が進み外注比率を上げているが、歴史的な「自社でプロセスをコントロールする」という思想の根底は、現在のEVシフトにおけるバッテリー内製化戦略などにも受け継がれている。
内製化か外製化かの検討は、実は購買機能と設備技術機能のぶつかり合いと両機能の共同作業の両方である。
ここに二つの筆者の体験事例を紹介するが、いずれも購買部門が主導してきた実績である。と言うのは、海外事業所では、中核機能の人員が寡少なため、意思疎通が円滑に運び、またそれほど多くのカネも掛からなかったからだと言える。
1.カンポンポ内作:日系鉱山会社の現地人従業員3000人の給食用パン(呼称カンポンポ:成分トウモロコシと小麦)
スワヒリ語で「カンポンポ」と呼ばれるパンは、現在もザンビアのコッパ―ベルト州やコンゴ民主共和国南部の鉱山都市を中心に存在しており、地域の人々のノスタルジーを誘うソウルフードとして愛されている。
カンポンポ(鉱山パン)について記述する:
1)名前の由来:鉱山労働者がかぶる「ヘルメット(安全帽)」の形に似ていること、或いは鉱山で配られることからその名がついたと言われている。
2)特徴:しっかりと重みがあり、食べ応えのある大きめの丸パン(バンズ)で、嘗て鉱山会社が労働者のランチやエネルギー補給用として、温かいココアや紅茶と一緒に支給していた。
大手鉱山会社による一斉支給の文化自体は、時代の変化とともに縮小・変化したが、パンそのものが消滅した訳ではない。鉱山地域の伝統的な地元のベーカリーや町のパン屋では、当時のレシピや重量を受け継いだ「Honourable Kapompo(由緒あるカンポンポ)」などの名称で、今でも焼き上げられて販売されていると言う。

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カンポンポ(スワヒリ語)は、現地人社員への仕事への動機づけとして非常に大切な資材(食料)であり、中止することはできず、安定供給の確保は大命題であった。
筆者が勤務したザイール鉱山の現地人従業員3000人の給食用パンを毎週水曜日正午前に配布するという社内規則があった。因みに、従業員は、朝食を取らない人が多いため、このパンが唯一の楽しみであったようだ。
要するに、ギリシャ人パン屋には、悉く悩まされ続け打つ手がない状態であった。そこで、内作への切り替えを真剣に検討し始めた。
ところが次の課題が浮上した:
①機械導入 ②原材料調達 ③パン職人育成 ④サプライチェーンの安全確保
対象資材は、違うが内外作という点では、この四つの要素は、検討する上で同じ考え方である。内作、内製と言っても「ヒトモノカネ」が必要となるが、この三点は、資材課の判断で恙なく確保できた。
1)パンを焼く窯
煉瓦で構成する窯は、比較的簡単に入手できたのは、ムソシ鉱山周辺にはラテライトの土がふんだんにあったからだ。下図はラテライト土からレンガを作る写真:

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ラテライト(紅土)とは、熱帯やサバナ気候の地域に広く分布する、鉄やアルミニウムの水酸化物を主成分とした赤褐色の土壌です。ラテン語で「煉瓦」を意味する「Later」に由来する。高温多雨な気候と雨季・乾季の交替により岩石中のケイ酸分や塩基類が溶脱し、溶けにくい鉄やアルミニウムの酸化物・水酸化物が地表に残ることで形成される。当時も今もザイールのシャバ州にはラテライトの土が周囲を覆っていた。地中にある時は柔らかいが、掘り出して空気に触れると水分が蒸発し、コンクリートのように硬くなる性質を持つため乾燥させてレンガの原料にも利用される。(Swanson, 1923)

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2)原材料調達
小麦粉とトウモロコシ粉は、国外からの調達となったが、幸いムソシ農園の農大留学生が少量であれば栽培してくれた。但し、量が増えてくると都会のルブンバシのイタリア系商人から買うことになる。
3)パン職人育成
資材課の社員の内、比較的真面目で実直な人を選んで試作させたところ非常にうまくいった。鉱山周辺には教会のベルギー人牧師もおりパンの製法を学んだ。と言うのは、牧師は自分たちの食材をほぼ自給自足していたから職人よりも上手だった。
4)サプライチェーン確保
これは一挙に解決した。つまり、鉱山内で作っているため構内物流のみとなるからだ。荷車で運ぶことになる。
こうして、とうとう内政のカンポンポが出来上がり、大きな成果が出た。つまりQCD改善であり、うまい、安い、早い、加えてemployee satisfaction従業員満足の達成である。現地従業員への動機づけとして、笑顔・やる気・満足・安心が生まれ、資材部の日本人も毎週のストレスから解放されたのである。
簡単にまとめると下図となる:
画像出典:筆者作成図
2.ANFO爆薬ANMONIUM NITRATE FUEL OIL EXPLOSIVE
鉱山の採掘にとって超重要な資材、爆薬類は、日本から輸入できないため当初から南アフリカに頼っていた。これも隣人や隣国の欧米人に聞いていたのであろう。ザイール国内には、当然ながら鉱山開発に必須の爆薬がAFRIDEXという会社があり、国内でダイナマイトが製造されていたが供給が安定しなかった。結局、南アフリカからの輸入となったが、両国に国交がないため苦労した。そこで、購入量を減らす方法を考えたのは採鉱部の主任である。貴重なダイナマイトの数量を減らすには、ANFOが適当とされた。このANFOいわゆる「硝安油剤爆薬」とは、硝酸アンモニウムと軽油の二成分からなる:94%の多孔質粒状硝酸アンモニウム(NH4NO3)(AN)と6%の2号燃料油(FO)から構成される。他の爆薬に比べて衝撃や摩擦に対して安全性が高い爆薬とされているもので製法は、比較的簡単であった。
画像出典:『エネルギー物質ハンドブック 第2版』p. 80
火薬学会規格 (VI) に依れば、ANFO爆薬は、硝酸アンモニウムと燃料油からなり、他の火薬、爆薬、金属粉等を含まない爆薬で、電気雷管で起爆しないもの。上図の通り、配合例は、硝安94%、燃料油6%。発生ガスの量に比して発生熱量が少ないためダイナマイトよりも安全で、かつ安価なので砕石などの坑外発破に使用される。ANFOの使用は1950年代に始まり爆薬としての感度が非常に低く、起爆させるには、プライマーまたはブースターと呼ばれる二次爆薬(標準的な雷管よりも大きい量)が必要である。(Pennsylvania Department of Environmental Protection, n.d.; U.S. Department of Labor, Occupational Safety and Health Administration, n.d.)
内製決定に至るまで
1)ヒト:採鉱の技師が主に中心となって指導してくれたが、ヒトモノカネは、資材課の担当である。カンポンポと同様に、製造担当には、高校卒の教育を受けた社員を選んだ。資材倉庫内で製造することに決定する。従業員を集め製法を説明し、内作に走ることになった。これも大きなコスト削減の一環である。
2)モノ:硝酸アンモニウムは、国内でも調達できたが、やはり国外からの輸入に頼る、一方で軽油は常時仕入れているZaire-FINAの軽油を使った。
3)カネ:逆にコスト削減のため採鉱課が支援してくれ、当面の間、研修を施してくれた。

画像出典:筆者提供(撮影写真)
下図が出来上がったANFO爆薬である。ピンク色の筒状のものが雷管とともに採鉱現場で使われた。
画像出典:日本アンホ火薬製造株式会社が筆者へ提供。
現在は、ANFO専門工場を作り、日本アンホ火薬製造株式会社として、国内鉱山における石灰石及び鉱石の採掘、土木工事における岩石の破壊・造成工事など、採石場における砕石の堀削などに用いる産業用爆薬の製造メーカーが事業を継続している。1964年、全国有数の鉱山地帯である秋田県北鹿地方の中心地の大館市に日本初のアンホ専門工場を建設した。主として、周辺の鉱山向けに良質で安価なアンホを供給し、当時、貿易の自由化前後の不況下、そしてその後、円高と価格低迷による危機的な状態にあった非鉄金属鉱山の合理化に大きく貢献した。以来、品質の改善と性能の向上を図り、アンホ需要の開拓に努めている。(Odate City, n.d.; Japan Explosives Industry Association, 2025)
References
Hellenic Community of Lubumbashi. (n.d.). The Hellenic Community of Lubumbashi Democratic Republic of Congo. https://helleniclubumbashi.com/
Odate City. (n.d.). Nihon Anho Kayaku Seizo Kabushiki Kaisha, Odate Plant [Japanese ANFO Explosives Manufacturing Co., Ltd., Odate Plant]. https://www.city.odate.lg.jp/city/company/p11580
Japan Explosives Industry Association. (2025). Abbreviated chronology [PDF]. https://www.j-kayaku.jp/library/57b3d121933dab4e18721fd2/646d56b6afe52378d937bc84.pdf
Pennsylvania Department of Environmental Protection. (n.d.). Blasting awareness program for underground industrial minerals mines. https://files.dep.state.pa.us/mining/Deep%20Mine%20Safety/DMSPortalFiles/Certifications/Blasting_Awareness_Program_for_Underground_Industrial_Minerals_Mines.pdf
Swanson, C. O. (1923). The origin, distribution and composition of laterite. Journal of the American Ceramic Society, 6(12), 1248–1260. https://doi.org/10.1111/j.1151-2916.1923.tb17709.x
The Henry Ford. (2025, December 12). Ford Rouge Factory Tour: History & timeline. https://www.thehenryford.org/collections/explore/popular-research-topics/ford-rouge-factory-tour-history-and-timeline
The Henry Ford. (n.d.). The Rouge. https://www.thehenryford.org/collections/explore/sets/detail/the-rouge
Toyota Motor Corporation. (2012a). Purchasing: Overview. In 75 years of Toyota. https://www.toyota-global.com/company/history_of_toyota/75years/data/automotive_business/production/purchasing/overview/index.html
Toyota Motor Corporation. (2012b). Establishing and developing specialized parts plants. In 75 years of Toyota. https://www.toyota-global.com/company/history_of_toyota/75years/text/taking_on_the_automotive_business/chapter2/section6/item2_b.html
Toyota Motor Corporation. (2012c). Nihokai (Kyohokai and Eihokai). In 75 years of Toyota. https://www.toyota-
執筆者
上原 修
NPO日本サプライマネジメント協会 名誉理事長
CPSM C.P.M. MBA JGA
大前研一ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授
米アリゾナ州立大学CAPS Research 日本チェアー
流通経済大学 客員講師 災害ロジスティックス担当
ヨーロッパ購買経営大学院 European Institute of Purchasing Management 前教授
仏パリESSECビジネススクール 前特任教授
