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原子力サプライチェーンに見る、消えかけた供給網をどう立て直すか(その3・完)――調達購買の現場で何ができるか

臼井 健一

本稿は全3回シリーズの最終回です。「その1」では再稼働の裏で静かに損なわれてきたサプライチェーンの実態を、「その2」では国・民間企業・海外市場という3つの側面からの立て直しの動きを見てきた。最終回となる今回は、業界団体が果たしている役割を整理したうえで、これらの動きが調達購買実務者・経営層にとってどのような意味を持つのかを考える。

業界団体の役割:情報とネットワークのハブとして

日本原子力産業協会はNSCPの共同事務局を担っており、加盟各社の具体的な取り組みや、活用できる補助金・税制優遇の情報をまとめて発信するサイトを運営するとともに、海外の新設プロジェクトに関わりたい企業向けの情報も提供している。国内案件が細る中、海外の新設ラッシュへの参画によって技術力を維持しようという発想であり、単独では海外進出のノウハウを持たない中小サプライヤーにとって、業界団体が持つネットワークは供給網を絶やさないための重要な橋渡し役となっている。

原子力委員会の資料によれば、米国では1980年代から、原子力向けの特別な仕様ではなく一般産業品を活用する検討が進められており、EUでも近年、同様の動きが見られるという。日本国内でも、プラントメーカーの垣根を越えてサプライヤーの実態を把握し、供給途絶が起きた際には一般産業品や3Dプリンタによる製造品の活用も視野に入れた対策を進める方向性が示されている。特定の専用部品に固執せず、代替手段を業界全体で準備しておくという発想は、単独企業では実現しにくく、業界団体や国が音頭を取る意義が大きい分野といえる。

こうした業界横断の取り組みは、規模の小さなサプライヤーほど恩恵が大きい。自社単独では最新の政策動向や補助金情報を追いきれない中小企業であっても、業界団体を窓口にすれば、国の支援策や海外プロジェクトの情報にアクセスしやすくなる。日本原子力産業協会が主催するシンポジウムや意見交換会は、普段は接点の少ない発注元企業と部品メーカー、さらには異業種の企業までもが顔を合わせる貴重な場になっており、サプライチェーン全体の「横のつながり」を維持する役割も担っている。

調達購買実務者・経営層への示唆:他人事ではない供給網の課題

原子力サプライチェーンの再構築は、電力会社やプラントメーカーだけの課題ではない。ここで起きているのは、①代替の利かないティア2・ティア3サプライヤーの経営リスクをどう可視化するか、②技術承継が途絶える前にどう手を打つか、③発注側が供給網の維持にどこまで関与すべきか、という、規模や業界を問わずあらゆる調達購買実務に共通する論点である。国内の製造業全体を見渡しても、経営者の高齢化と後継者不在による廃業・事業承継の問題は珍しくなく、原子力サプライチェーンで起きていることは、いわば「代替不能な技術を持つ企業から先に姿を消していく」という、より広い構造的問題の縮図とも言える。

特に、「その1」で紹介したDCモーターの供給途絶事例が示すように、代替が利かない部品ほど「起きてから対応する」のでは遅い。自社の調達品目のうち、供給元が実質的に1社しかない部品・素材がどれだけあるかを棚卸しし、撤退リスクや後継者不在リスクをあらかじめ把握しておくことが、原子力に限らずあらゆる調達部門にとって基本動作になる。また、技能職の減少という問題は、原子力産業に固有のものではなく、日本のものづくり産業全体が直面する構造的な課題でもある。原子力業界で進められている「技術の文書化」「模擬設備での研修」といった技能継承の工夫は、他業界の技能承継対策にもそのまま応用できる視点だろう。

自社が原子力産業と直接の取引がなくても、特殊鋼や計装機器、非破壊検査といった隣接領域のサプライヤーを抱える企業にとっては、需要動向を注視する価値がある。原子力向けの受注が増えれば、同じ設備・同じ技術者を共有する他分野向けの生産キャパシティが逼迫し、リードタイムや価格に影響が及ぶ可能性もあるからだ。逆に、原子力分野で培われてきた品質基準・トレーサビリティ管理やサプライヤーの内製化・技術移管の知見は、航空宇宙や医療機器など他の高信頼性産業の調達管理にも応用できる。実際、耐放射性・耐震性・気密性といった過酷な要求水準の中で品質を担保してきた原子力産業のノウハウは、要求仕様が厳しい他分野の調達管理者にとっても参考になる部分は少なくないはずだ。

単発の受注に飛びつくのではなく、複数年にわたる発注見通しの有無や、代替困難な技術をどう社内・グループ内に残すかという視点で取引先を評価する目が、これからの調達購買部門には一層求められる。原子力業界のように、代替が利かない技術が集中する分野ほど、発注元が「良い取引先を選ぶ」だけでなく「取引先を育て、維持する」責任を負う場面が増えていく。実務に落とし込むとすれば、次のような視点でのチェックが出発点になるだろう。

● 1社調達の棚卸し:自社の主要調達品目のうち、供給元が事実上1社しかないもの、後継者不在や事業承継リスクを抱えているサプライヤーはどれだけあるか

● 技術継承の見える化:熟練技能者の年齢構成や、その技術が文書・マニュアルとしてどこまで残されているか

● 供給途絶の代替シナリオ:主要部品・素材が突然供給停止した場合、一般産業品への切り替えや3Dプリンタ等の代替製造手段で代替できるか、あらかじめ検討されているか

● 発注見通しの共有:単発のスポット発注ではなく、複数年の発注計画をサプライヤーと共有できているか

● 適正なコスト負担:原材料・エネルギー・労務費の上昇分を、自社だけでなく発注先も含めたサプライチェーン全体でどう分担するか。価格転嫁を渋った結果としてサプライヤーが撤退すれば、結局は自社の調達コストとして跳ね返ってくる

GX脱炭素電源法による政策転換(その1)、国のプラットフォームによる支援や発注元企業による垂直統合的な関与、海外市場への展開(その2)、そして業界団体による橋渡し(その3)――3回にわたって見てきたように、国内で数十年ぶりに動き出したこの産業の再編プロセスは、他人事ではなく自社の調達戦略を点検する材料として、現場目線で捉え直してみることには大きな意味があるだろう。

主な参考情報

※本シリーズ「その1」「その2」で挙げた出典もあわせてご参照ください。

※本記事は、経済産業省・資源エネルギー庁、日本原子力産業協会、原子力規制委員会等の公開資料および報道情報をもとに、独自の視点で構成・執筆したオリジナル記事です。

執筆者

臼井 健一

NPO日本サプライマネジメント協会 理事 / 事務局長
1990年、東京電力株式会社入社。工務、企画、事業開発、技術業務革新、資材調達など、多岐にわたる事業領域で専門性を培う。国際調達および火力・水力・原子力発電設備の調達分野において、管理職・プロジェクトリーダーとして長年にわたり数々の調達改革を牽引。2025年、東京電力ホールディングス株式会社を定年退職。現在、NPO日本サプライマネジメント協会にて調達人材の育成とサプライマネジメント領域の高度化を推進中。M.Sc. (工学修士)

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