
MBCIが解説するBCの本質:第4回 事業継続戦略とは何か? ―「BCだから二重化」でも「ROIが合わないから却下」でもない。最後は経営の覚悟の問題です―
久原 勇作
Key Takeaways
Business Continuity Strategyは、すべてを二重化することではありません。
Diversification、Replication、Standby、Post-incident acquisition、Do nothingには、それぞれ異なる準備水準、コスト、残余リスクがあります。
BCM担当者は教科書的なSolutionを経営に押しつけるのではなく、RTO・MBCOを実現するための選択肢を提示する必要があります。
経営も、BC投資を通常のROIや投資回収期間だけで判断すべきではありません。企業として失ってはならない能力については、経営が明示的に資源配分する必要があります。
さらに、BCのために保持するRedundancyを、可能な限り平時にも価値を生むFlexibilityへ変換し、供給信頼性、顧客満足、企業への信頼につなげることが重要です。
日本では、BCPを防災・減災と混同する人が少なくありません。
しかし、防災・減災は、まず人命や安全を守り、法令や安全配慮義務などに対応する活動です。企業として当然に整備すべき領域であり、これを怠れば、刑事・民事・行政上の責任を問われる可能性があります。
一方、危機管理は、リスクが顕在化した際に、限られた情報と時間の中で何を判断し、どのように対応するかという問題です。そこには、経営者の哲学や企業文化が如実に表れます。
では、Business Continuityとは何でしょうか。
単に、工場や設備、IT、サプライヤーを二重化すればよいという話ではありません。
本テーマの第2回では、BCMは経営として、
「何を守るのか」
を決めることから始まると説明しました。
第3回では、それをBIA(Business Impact Analysis)によって、
「いつまでに、どの水準まで戻すのか」
へ変換しました。
例えば、
「この製品については24時間以内に通常時の30%まで供給を回復する」
といったRTOやMBCOという事業継続要件を定めます。
では、その要件をどう実現するのでしょうか。
事業継続戦略には、いくつかの選択肢があります。
例えば次のような選択肢があります。
Diversification
複数の資源を平時から実際に利用します。
Replication
平時には利用していなくても、必要になれば速やかに切り替えられる代替資源を準備しておきます。
Standby
必要となった場合に、一定の準備を経て利用できる状態にします。
Post-incident acquisition
特定のサプライヤーと事前契約をしておき必要な資源を中断発生後に確保します。
Do nothing
平時には追加的な準備を行わず、中断発生後に検討します。
(BCI, 2018)
これらの考え方は、人員、設備、IT、原材料、サプライヤー、物流、拠点などに適用できます。
一般的には、事前準備の程度を高めるほど、復旧の確実性は高まり、短いRTOにも対応しやすくなります。
では、重要なものはすべてDiversificationやReplicationにすればよいのでしょうか。
ここからが、事業継続マネジメントの本当の難しさです。

教科書的に正しいBC戦略が、企業を弱くすることもある
BCの理論だけを考えれば、冗長性は高いほど安心です。
サプライヤーは一社より二社。
工場も一つより二つ。
在庫は5日分より30日分。
ITも完全に二重化されている方が安心でしょう。
ところが、企業には競争があります。
二社購買にすればボリュームディスカウント効果を失うかもしれません。
予備設備を保有すれば設備稼働率は下がります。
代替拠点を維持すれば固定費が発生します。
安全在庫を積み上げれば運転資本が増え、陳腐化や廃棄のリスクも高まります。
つまり、
レジリエンスを高めることは重要ですが、そのための冗長性が平時のコスト増につながれば、企業競争力との間にトレードオフが生じます。
レジリエンスを確保する考え方は、Redundancy(冗長性)とFlexibility(柔軟性)に大きく区別できます。
Redundancyとは、安全在庫、複数サプライヤー、余剰生産能力など、事業中断に備えて余分な資源を保持することですが、非常時以外には収益を生まない「Pure Cost」になり得ます。
これに対してFlexibilityは、平時の事業運営にも活用でき、レジリエンスを高めると同時に競争優位にもつながり得ます(Sheffi & Rice, 2005)。

この違いは、BCMを考えるうえで極めて重要です。
BCとして教科書的に正しいSolutionが、経営としても正しいとは限りません。
BCM担当者にも経営にも「陥りやすい誤り」があります
一つは、BCM担当者側です。
BIAによって重要性が確認されたから、
「二社購買にすべきだ」
「設備をReplicationすべきだ」
「別拠点を確保すべきだ」
と、BCの教科書的なSolutionをそのまま経営上の正解としてしまうことです。
しかし、BCM担当者の役割は、経営にSolutionを押しつけることではなく、選択肢を示すことです。
例えば、
DiversificationならRTOを満たせる。
Replicationでも、このRTO条件なら満たせる。
Standbyでは、このリスクが残る。
Post-incident acquisitionでは、RTOを超える可能性が高い。
Do nothingであれば、この程度の事業中断を受容する必要がある。
そして、それぞれにどの程度のコスト、制約、残余リスクがあるのかを示します。
反対に、経営側もBC戦略を日頃の経済合理性だけで判断してはいけません。
「ROIはいくらか」
「投資回収期間は何年か」
「営業利益をいくら増やすのか」
という、通常の設備投資や成長投資と同じ評価軸だけで判断してはなりません。
BC投資は、何も起きなければ、予備能力から直接の収益は発生しません。
このため、通常の投資案件と同じ土俵だけで比較すれば、BC投資は劣後しやすくなります。
Business Continuityの価値は、事故発生時の損失回避額だけで評価できるものではありません。
「事故が発生すればこれだけ損失するから、BCには価値がある」という説明だけでは不十分であり、平時においても、供給信頼性、顧客対応力、組織の柔軟性などを通じて企業価値に寄与する可能性があります。
そのため、BC投資は単なる損失回避のための費用ではなく、日常の事業運営にも価値をもたらし得る経営資源への投資として捉える必要があります(Phelps, 2018)。
つまり、
「BCMだから二重化すべきだ」という技術論だけでも、「通常のROIを満たさないから投資しない」という財務論だけでも不十分なのです。
なぜ、それでも投資するのか
ここで、第2回の議論に戻ります。
企業には、
経済合理性だけでは切り捨てられないもの
があります。
そして、
「失ってはならないから保有する」
という意思決定が必要になります。
BCMは、企業が築いてきた競争優位を維持・保全する戦略的な役割を持ちます。
いかに競争優位を築いても、それを脅かす脆弱性によって企業の評判、支払能力、さらには企業存続そのものが危険にさらされるのであれば、長期的な経営戦略として十分とはいえません。
その意味で、BC投資は通常の成長投資とは性格が異なり、企業が築いてきた価値と存続可能性を守るための経営判断として捉える必要があります(Herbane et al., 2004)。
経営として、
「この能力は会社と社会の約束であり、企業の存続のために失えないので保持する」
という覚悟が試されます。
企業として存続に必要な能力を、採算管理だけに任せず、戦略的なレジリエンス能力として、経営が明示的に資源配分するという意味です。
それこそが経営の仕事です。
それでも「BCだから仕方ない」で終わってはいけない
さらに、Redundancy(冗長性)をFlexibility(柔軟性)へ変換できるかどうかにも、経営能力が問われます。
「企業存続のためだから、コスト増を受け入れよう」
だけでは、経営として十分ではありません。
なぜなら、そのコストによって日常の競争力を失えば、事業中断が起こる前に会社が競争に負けてしまうからです。
重要なのは、BCのために確保した余剰能力や代替能力を、非常時にしか使わない「待機資源」のままにしないことです。
その能力を、平時の需要変動への対応、生産や業務の柔軟性向上、新たな事業機会への対応、顧客サービスの向上などに活用できないかを考える必要があります。
もちろん、すべてのRedundancyをFlexibilityへ転換できるわけではありません。企業使命や事業特性によっては、非常時のためだけに保持しなければならない能力もあります。
それでも、
「非常時に必要だから持つ」で終わらせず、「この能力を平時にもどのように価値へ変えられるか」を考えること
が重要です。
レジリエンスを非常時専用のRedundancyとして構築するだけでなく、可能な限り平時にも価値を生むFlexibilityとして設計することで、BC投資と企業競争力のトレードオフを小さくすることができます(Sheffi & Rice, 2005)。
「止めない能力」は社会からの信頼にもなり得る
そして、ここにはもう一つ重要な視点があります。
Business Continuityの能力そのものを、平時の企業価値につなげることはできないでしょうか。
Supply Chain Resilienceと企業の評判との関係を調べた英国製造業の実務家17名へのインタビューでは、レジリエンスが企業の良好なReputation(評判・信用)を維持するプロセスに関係することが示されています(Alfarsi et al., 2020)。
さらに、中国の製造企業206社を対象とした実証研究では、Internal Resilience、Supplier Resilience、Customer Resilienceの三つすべてがCustomer Satisfactionと正の関係を示しました。研究自体も、レジリエンス投資には継続的な顧客サービスと競争利益との間のトレードオフがあることを問題として扱っています(Huo et al., 2024)。
また、スリランカのアパレルメーカー89社を対象とした研究では、Supply Chain Resilience能力のうち、特にAgilityが企業業績と競争優位に大きく寄与することが示されています(Abeysekara et al., 2019)。
さらに、近年のSystematic Literature Reviewでも、Supply Chain Resilienceの評価指標として、Customer Satisfaction、Customer Loyalty、Corporate Image、Service LevelなどがReputational Performanceとして整理されています(Paul & Saha, 2025)。
もちろん、
「BCに投資すればブランド価値が必ず上がり、売上が増える」
とまで言うことはできません。
そこまで直接的な因果関係が十分に実証されているわけではありません。
しかし少なくとも、
安定して供給すること、約束したサービスを継続すること、中断しても速やかに回復することが、顧客満足や企業の評判と結びつく
という実証的な裏付けはあります。
したがって企業は、
「非常時にも止まりません」
と宣伝する必要はありません。
日々、
約束したものを、約束した品質・時期で提供し続ける。
その積み重ねそのものが、
「この会社なら任せられる」というTrust(信頼)
を形成します。
BCの能力を、平時のReliability(信頼性)として顧客や社会に実感してもらうことができれば、それは単なるBC Costではなく、ブランドや顧客関係を支える無形の企業能力にもなり得ます。
経営とBCM担当者は何を決めるのか
ここまでを整理すると、役割は異なります。

最終的に、
企業使命
企業存続
顧客への責任
社会的責任
競争力
資源制約
を統合したうえで、
「企業として何を守り、そのためにどこまで経営資源を投入するのか」
を決断する。
そこには、予備能力を維持するという負担が伴います。それでも、何としても守るという覚悟が経営に問われます。
MBCI’s Advice
BCM担当者の役割は、最も強いSolutionを選ぶことではありません。
経営の役割も、通常のROIだけで切ることではありません。
何を失ってはならないのかを定め、そのためにどこまで経営資源を投入するのかを決める。
それがBusiness Continuity Managementです。
関連記事
References
Abeysekara, N., Wang, H., & Kuruppuarachchi, D. (2019). Effect of supply-chain resilience on firm performance and competitive advantage. Business Process Management Journal, 25(7), 1673–1695.
Alfarsi, F., Lemke, F., & Yang, Y. (2020). The importance of supply chain resilience: An empirical investigation. Procedia Manufacturing, 39, 1525–1529.
Business Continuity Institute. (2018). Good Practice Guidelines 2018 Edition. The Business Continuity Institute.
Herbane, B., Elliott, D., & Swartz, E. M. (2004). Business continuity management: Time for a strategic role? Long Range Planning, 37(5), 435–457.
Huo, B., Li, D., & Gu, M. (2024). The impact of supply chain resilience on customer satisfaction and financial performance: A combination of contingency and configuration approaches. Journal of Management Science and Engineering, 9(1), 38–52. https://doi.org/10.1016/j.jmse.2023.10.002
International Organization for Standardization. (2019). ISO 22301:2019 Security and resilience — Business continuity management systems — Requirements. International Organization for Standardization.
Paul, A., & Saha, S. C. (2025). A systematic literature review on flexible strategies and performance indicators for supply chain resilience. Global Journal of Flexible Systems Management, 26, 207–231.
Phelps, R. (2018). The true value and return on investment of business continuity. Journal of Business Continuity & Emergency Planning, 11(3), 216–222.
Sheffi, Y., & Rice, J. B., Jr. (2005). A supply chain view of the resilient enterprise. MIT Sloan Management Review, 47(1), 41–48.
執筆者
久原 勇作
NPO日本サプライマネジメント協会 代表理事
MBA CPSM MBCI 中小企業診断士他
日系大手企業にて国際提携, マーケティング(含むWebマーケティング), 統計的品質管理, 調達及びリスクマネジメント等の要職を歴任。専門的な体系的知識と実践の両輪が機能するキャリアデベロップメントを支援している。
MBAインストラクターを兼職:担当はCorporate Finance, Marketing, Leadership Management
コンサルタント専門は経営管理、人材育成、サプライチェーンマネジメント、事業継続マネジメント、リスクマネジメント、マーケティング