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CPSM講座第4回:カテゴリーによって「買い方」はどう変わるのか? ― Porter’s Five Forces × Kraljic Matrixで考える調達戦略 ―

久原 勇作

前回は、Kraljic Matrixを使って、すべてのカテゴリーを同じように買ってはいけない理由を考えました。

Kraljic Matrixでは、「Supply Risk(供給リスク:市場や製品の複雑性)」と「Profit Impact(支出額や事業への影響度合)」という二つの軸によって、カテゴリーをNoncritical、Leverage、Bottleneck、Strategicの四つに分類しました。これは、しばしば戦略のセグメンテーションともいわれます。

まず重要なのは、市場動向について理解を深めることです。

そこで今回は、Porter’s Five Forcesを調達側から読み替えながら、供給市場の構造をどのように捉え、それをカテゴリーごとの「買い方」につなげるかを考えてみます。


「売り手の市場」と「買い手の供給市場」は同じ市場

Porter’s Five Forcesは、Michael E. Porterが企業の競争環境を分析するために提示したフレームワークです。

一般には、

  • 既存企業間の競争(Rivalry among Existing Competitors)

  • 新規参入の脅威(Threat of New Entrants)

  • 代替品・代替サービスの脅威(Threat of Substitutes)

  • 売り手の交渉力(Bargaining Power of Suppliers)

  • 買い手の交渉力(Bargaining Power of Buyers)

という五つの競争要因から、業界構造を分析します(Porter, 1979, 1980)。

第2回で説明したように、調達部門にとっての「カテゴリー」は、サプライヤーから見れば自社が競争する市場、すなわち事業ドメインです。

したがって、Five ForcesはSupply Market Analysis(供給市場分析)の重要な基礎となります。

ただし、単に供給市場に多くのサプライヤーが存在するからといって、その市場を競争的とみなし、安易にLeverageの調達戦略を適用することはできません。

自社の要求仕様、品質、認証、供給能力などに適合できるサプライヤーでなければ、現実には調達先の候補にはならないからです。

したがって、基本的には自社の要求に対応可能なサプライヤー群が分析対象となります。

ただし、現在の要求仕様だけにとらわれてはいけません。代替仕様や代替技術によって供給市場そのものを広げることができないか、という視点も必要です。

Five Forcesを中心に、より広いSupply Market Analysisとして、例えば次のような市場情報を分析します。

  • サプライヤーの所在地や地理的な集中度

  • 市場における競争状況

  • 市場全体の供給能力と、その拡大・縮小の可能性

  • 参入障壁の内容と新規参入の動き

  • 技術変化やイノベーション

  • 市場価格、コスト動向、その背景にあるコストドライバー

  • サプライチェーン上のリスクや供給中断の可能性

  • 関連する法律や規制

参入障壁には、設備投資の大きさ、認証取得、規制、知的財産、地政学的な制約なども含まれます。

これらの分析結果を総合して、Kraljic MatrixのSupply Riskを評価します。


象限(セグメンテーション)の決定

Supply Riskを評価したうえで、支出額、自社の中長期事業計画、収益性、品質、顧客、操業停止、技術などへの影響を踏まえてProfit Impactを評価すれば、Kraljic Matrix上の位置づけが見えてきます。

そして、象限によって調達戦略も異なってきます。

ただし、ここで注意したいのは、特定の象限と特定の購買手法を一対一で固定化しないことです。

例えば、Reverse Auction(リバースオークション)はLeverageカテゴリーで活用しやすい手法です。

しかし、

「Reverse Auction=Leverage」

と決めつける必要はありません。

Reverse Auctionが機能するためには、

  • 仕様を比較しやすい

  • 複数の供給者が存在する

  • サプライヤーの切替えが可能である

  • サプライヤー間に十分な競争がある

  • 価格が重要な意思決定要素である

といった条件が必要です。

この条件が整っていれば、Noncriticalカテゴリーで利用される場合もあり得ます。

反対に、Leverageカテゴリーであっても、品質、サービス、技術、切替えコストなどを考えれば、Reverse Auctionが適さない場合があります。

つまり、象限が購買手法を決めるのではなく、象限が示す戦略目的と市場条件から、適切な手法を選択することが重要なのです。

では、四つの象限について考えてみましょう。


Leverage ― 競争を「使える」市場

Leverageカテゴリーは、支出・事業影響は大きいものの、Supply Riskは比較的低いカテゴリーです。

Five Forcesの視点では、

  • 多数のサプライヤーが存在する

  • サプライヤー間の競争が強い

  • 新規参入や切替えが比較的容易

  • 代替品が存在する

  • 買い手側の交渉力が比較的強い

といった市場が想定されます。

このような市場では、調達側に選択肢があります。

したがって、

  • 購買量の集約

  • 競争入札

  • 数量割引

  • 市場価格や他社との比較

  • サプライヤーの切替え

  • Reverse Auction

など、市場競争を利用した手法を検討できます。

CPSM教材でもLeverageカテゴリーでは、支出をまとめ、複数のサプライヤーを探索し、数量割引や規模の経済を活用した交渉、Reverse Auction、短期契約などが例として挙げられています。

Leverageカテゴリーの本質は、単に「安く買う」ことではありません。

競争を利用できる市場で、買い手側の交渉力を活用すること

にあります。


Bottleneck ― 「強く買う」より「確実に買う」

Bottleneckカテゴリーでは状況が逆になります。

例えば、

  • サプライヤーが限られる

  • 特許や特殊技術が必要

  • 認証などの参入障壁が高い

  • 代替品が少ない

  • サプライヤーの切替えコストが高い

場合、売り手側の交渉力は強くなります。

Five Forcesで見ると、

  • 売り手の交渉力が強い

  • 代替品が少ない

  • 参入障壁が高い

  • 買い手側の交渉力が弱い

という市場構造になりやすいでしょう。

このような市場で重要になるのは、

Supply Assurance(供給確保)

です。

そのため、

  • 安全在庫

  • 代替仕様の検討

  • セカンドソースの育成

  • 長期契約

  • 購買量のコミットメント

  • 需要予測の共有

  • 生産能力の確保

  • BCP

などを組み合わせます。

CPSM教材でも、Bottleneckカテゴリーでは、より広く入手可能な代替品を探し、それができない場合には既存サプライヤーを確保し、価格上昇や供給中断へのリスクを低減することが重視されています。

さらに、そのサプライヤーから他の品目も購入することで「より良いサービスを受ける」ことも戦略の一つとして挙げられています。

つまり、サプライヤー側から見て、

「この顧客には優先的に供給したい」

と思われる存在になることも調達戦略になります。

例えば、

  • 正確な需要予測を提供する

  • 発注量の変動を減らす

  • 長期的な購入量をコミットする

  • 契約条件を合理化する

  • 問題発生時に共同で解決する

  • サプライヤーにも合理的な経済メリットが生まれる条件を設計する

といった取り組みです。

つまりBottleneckカテゴリーでは、Preferred Customerになることも重要になります。

交渉についても同様です。

買い手側の交渉力が弱い市場で、一方的に価格や条件を押しつけても、サプライヤーが他の顧客を優先できるのであれば効果は限定的です。

むしろ、

Win-Win Solutionを探し、双方にとって供給を継続する合理性をつくる

ことが重要になります。

したがってBottleneckでは、

「価格より供給を守る」だけではなく、「供給してもらえる関係をつくる」

ところまで考える必要があります。


Strategic ― 「価値をつくる」

Strategicカテゴリーは、Bottleneckと同様に供給市場の複雑性が高い一方で、購買企業にとって支出額や事業への影響が大きいという特徴があります。

CPSM教材ではStrategicカテゴリーについて、長期安定供給を確保するために、サプライヤーとの関係構築、サプライヤー開発、プロセス統合を重視し、長期契約やStrategic Supplier Allianceなどが例として挙げられています。

したがって、

  • 長期契約

  • 戦略的なサプライヤーとの提携

  • サプライヤー開発

  • 共同改善

  • 共同開発

  • 生産能力への共同投資

  • 技術ロードマップの共有

  • 業務プロセスの統合

などが検討対象になります。

ここで重要なのは、長期契約はStrategicだけの購買戦略ではないということです。

Bottleneckでも長期契約は重要です。

ただし、その目的が異なります。

Bottleneck:供給を確保するための長期契約

Strategic:供給を確保すると同時に、将来価値を共同で創るための長期契約

Supplier Relationshipについても同じです。

Bottleneckでは、

「供給してもらうためのRelationship」

という側面が強くなります。

Strategicでは、

「サプライヤーの能力を活用し、一緒に価値をつくるRelationship」

へ発展します。

つまりStrategicカテゴリーでは、Supply Assuranceに加えて、**Value Creation(価値創出)**が重要になります。


Noncritical ― 安く買うより「買うためのコスト」を下げる

最後はNoncriticalカテゴリーです。

供給市場には多くのサプライヤーが存在し、代替品も多く、Supply Riskも事業への影響も小さいカテゴリーです。

CPSM教材では、ソーシングプロセスの簡素化、サプライヤー数の削減、発注や在庫補充の効率化が重視され、Supplier-managed Inventory(SMI)、オンラインカタログ、オンラインストアなどが例として示されています。

このカテゴリーで重要なのは、

Process Efficiency(業務効率)

です。

例えば、1万円の消耗品を500円安く買うために、担当者が複数社から見積りを取り、価格を比較し、交渉し、承認を取っていれば、その処理コストの方が高くなる可能性があります。

そこで、

  • サプライヤーの集約

  • カタログ購買

  • P-Card

  • Blanket Order(包括発注)

  • Supplier-managed Inventory(SMI)

  • 購買プロセスの自動化

などによって、購買プロセスそのものを簡素化します。

もちろん、競争が十分に存在し、取引量がまとまれば、競争入札やReverse Auctionを利用することもできます。

しかし、それによって得られる価格低減よりも、入札を実施するためのコストの方が高ければ意味がありません。

したがってNoncriticalカテゴリーでは、

「最安値を取る」より、「買うために人手と時間を使わない」

ことが重要になります。


同じ手法でも「目的」が違う

ここまで見てくると、Kraljic Matrixを理解するうえで重要なのは、

「どの象限でどの手法を使うか」だけではなく、「なぜその手法を使うのか」

であることが分かります。

図表1 Kraljic Matrixにおけるカテゴリー別の戦略目的(筆者作成)

例えば、長期契約では、

  • Bottleneck:Supply Assurance

  • Strategic:Value Creation

という違いがあります。

Supplier Relationshipでは、

  • Bottleneck:Preferred Customerとして供給を確保する

  • Strategic:Collaborative Relationshipによって価値を共同創出する

という違いがあります。

競争についても、

  • Leverage:市場競争を買い手側の交渉力として積極的に利用する

  • Noncritical:必要に応じて利用するが、業務効率を損なわない範囲にとどめる

という違いがあります。

整理すると、次のようになります。

Category

最優先するもの

競争の使い方

契約

Supplier Relationship

Noncritical

Efficiency

必要な範囲で活用

Framework / Blanket等

Transactional / Simplified

Leverage

Economic Value

積極的に活用

市場条件に応じて設計

Competitive

Bottleneck

Supply Assurance

限定的

Long-termも重要

Preferred Customer / Win-Win

Strategic

Value Creation

選択的

Long-term / Alliance

Collaboration / Integration

この表も「絶対的な答え」ではありません。

同じ象限でも、カテゴリー、市場構造、企業戦略によって最適な方法は変わります。

Kraljic Matrixは、購買手法を自動的に決めるモデルではなく、

「この市場では何を優先すべきか」を考えるための出発点

なのです。


市場が変われば、象限も変わる

もう一つ重要な点があります。

Kraljic Matrixの象限は固定されたものではありません。

図表2 市場環境の変化によるKraljic Matrix上の位置づけの変化(筆者作成)

例えば、あるBottleneckカテゴリーに新しい代替技術が登場し、複数のサプライヤーが参入したとします。

すると、

代替手段が増え、

参入障壁が下がり、

サプライヤー間の競争が強くなれば、

売り手側の交渉力は低下します。

その結果、これまでBottleneckだったカテゴリーがLeverageへ移る可能性があります。

反対に、Leverageカテゴリーで業界再編が起こり、サプライヤーが10社から2社になれば、売り手側の交渉力は高まります。

あるいは、輸出規制や地政学リスクによって購入可能なサプライヤーが減少しても同じです。

つまり、

Five Forcesが変わればSupply Riskが変わり、Kraljic Matrix上の位置も変わる

のです。

したがって、カテゴリーマネジメントとは、一度カテゴリー戦略を策定して終わる活動ではありません。

供給市場の変化を継続的に観察し、カテゴリー戦略を見直す活動

なのです。


「何を買うか」から「市場をどう使うか」へ

第1回では、Supply Managementを「全社戦略を理解し、供給市場を活用して企業の競争優位を実現するための組織機能」と捉えました。

第2回では、カテゴリーの背後には供給市場があることを説明しました。

第3回では、その供給市場と事業への影響をKraljic Matrixによって分類しました。

そして今回見てきたように、その分類の意味は、カテゴリーごとに「買い方」を変えることにあります。

競争を活用する。

供給を守る。

取引を簡素化する。

サプライヤーと良好な関係を構築する。

そして、サプライヤーと共に価値をつくる。

どれが正しいということではありません。

供給市場の構造に適した方法を選択することが重要なのです。

調達戦略とは、「何をいくらで買うか」を決めることだけではありません。

供給市場のPower Structure(力関係)を理解し、その市場をどのように活用するかを決めること。

そこに、PurchasingからSupply Managementへ進化する一つの境界線があるのではないでしょうか。


References

Institute for Supply Management. (2018). CPSM® Study Guide 3rd Edition: Sourcing. Institute for Supply Management.

Kraljic, P. (1983). Purchasing must become supply management. Harvard Business Review, 61(5), 109–117.

Porter, M. E. (1979). How competitive forces shape strategy. Harvard Business Review, 57(2), 137–145.

Porter, M. E. (1980). Competitive strategy: Techniques for analyzing industries and competitors. Free Press.

執筆者

久原 勇作

NPO日本サプライマネジメント協会 代表理事
MBA CPSM MBCI 中小企業診断士他
日系大手企業にて国際提携, マーケティング(含むWebマーケティング), 統計的品質管理, 調達及びリスクマネジメント等の要職を歴任。専門的な体系的知識と実践の両輪が機能するキャリアデベロップメントを支援している。
MBAインストラクターを兼職:担当はCorporate Finance, Marketing, Leadership Management
コンサルタント専門は経営管理、人材育成、サプライチェーンマネジメント、事業継続マネジメント、リスクマネジメント、マーケティング

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