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企業の競争優位は、なぜSupply Managementで決まるのか ― AI時代の大学教育とCPSM®から考える競争戦略 ―(連載3回) 

久原 勇作

第1回 Supply Managementは、なぜ企業戦略から始まるのか

1 企業が直面している課題は「調達」ではない

もし十年前、「調達部門は企業戦略の中核である」と言われたなら、多くの人は違和感を覚えたかもしれない。

調達とは、必要な資材を必要な品質で、適切な価格と納期で購入する管理業務である。そのように理解されてきたからである。

しかし、今日の経営環境は、その前提を大きく変えつつある。

米国の関税政策は、長年築き上げられてきたグローバル調達網の見直しを迫っている。

ホルムズ海峡や紅海を巡る地政学リスクは、物流や供給継続そのものを経営課題へ変えた。

レアアースや半導体材料などの重要鉱物は、市場価格だけで安定的に調達できる資源ではなくなり、経済安全保障や国家安全保障とも密接に結び付いている。

さらに、日本では人口減少と労働力不足が進み、限られた人財で企業を運営しなければならない時代となった。

一方、生成AIは調達をはじめとする企業活動全体を急速に変革しつつある。

これらは、相互に無関係な問題ではない。

共通しているのは、

企業は、自社だけで競争力を維持できる時代ではなくなった

という事実である。

企業は世界中のサプライヤー、物流企業、技術パートナー、大学、研究機関、スタートアップなど、多様な外部資源と連携しながら価値を創造している。

したがって、企業の競争力は社内の経営資源だけではなく、

供給市場(Supply Market)を最大限活用したサプライチェーンを、どのように設計するか

によっても決まる。

今日の経営者が問われているのは、

「いかに安く買うか」

だけではない。

本質的な問いは、

「変化する供給市場を活用しながら、どのように企業の競争優位を維持するのか。」

という一点にある。

この問いに答える体系的知識基盤がSupply Managementである。

調達・購買を単なる取引機能としてではなく、供給市場を通じて企業戦略を実現する経営機能として捉える考え方は、1980年代以降の戦略的ソーシングおよびSupply Management研究において発展してきた(Ellram & Carr, 1994; Kraljic, 1983)。

そして、この問いはAI時代になって、ますます重要性を増している。

AIが企業活動へ深く浸透する現在では、

「どのような競争優位を実現するのか」

「そのために、どのような組織およびシステムを構築するのか」

という設計思想そのものが、これまで以上に重要となっているからである。

AIは、人が定義した目的、データ、業務プロセスおよび知識構造を前提として、情報収集、分析、予測および意思決定支援を高度化することができる。

一方、企業固有の暗黙知は、経験、対話、共同作業および実践を通じて形成される。そのため、データやアルゴリズムを導入するだけで、暗黙知を完全に再現できるわけではない(Davenport & Ronanki, 2018; Nonaka, 1994)。

AIは、既存のデータからパターンを発見し、新たな仮説や知識候補を生成することはできる。しかし、それらを体系化された正規の知識基盤の中で評価し、企業が追求すべき固有のMissionや競争優位を選択し、企業固有の暗黙知を組み込みながら、AIシステムの目的、制約条件および評価基準を設計する責任までAIへ委ねることはできない。

図1 体系的知識基盤と暗黙知によるAI活用

だからこそ企業には、Supply Managementという体系的知識基盤を理解し、それを自社固有の暗黙知と融合させながら、AIシステムを継続的に設計、運用、評価および改善し、自社組織に最適化できる人財が求められるのである。


2 Supply Managementは企業戦略から始まる

Supply Managementは、調達購買活動から始まるのではない。企業戦略から始まる。

まず企業は、自らの存在意義であるMissionを定める。

Missionとは、

「なぜ、この企業は存在するのか。」

という問いへの答えである。

しかし、Missionだけでは競争優位は生まれない。

企業は、顧客へどのような価値を提供するのかというValue Propositionを明確にしなければならない。

同じ市場で競争する企業であっても、提供する価値は異なる。

ある企業は、圧倒的な低価格を提供する。

ある企業は、最高の品質を提供する。

ある企業は、短納期や高い供給信頼性を競争力とする。

また、ある企業は、ブランド体験そのものを価値として提供する。

重要なのは、自社がどの価値を競争軸として選択するかである。

その価値を継続的に提供するために、企業はCoreを定義する。

Coreとは、自社が内部に保持し、継続的に強化すべき経営資源または組織能力である。

設計技術かもしれない。

ブランドかもしれない。

研究開発能力かもしれない。

生産技術、顧客データ、組織文化またはデータ基盤である場合もある。

企業は、

Mission

↓

Value Proposition

↓

Core

という一貫した論理によって、競争力の基礎を設計する。

図2 企業戦略からSupply Managementへの展開

競争優位は、市場における競争上のポジショニングだけでなく、価値を生み出す活動の組合せ、模倣困難な経営資源および組織能力によって形成される(Barney, 1991; Porter, 1985; Prahalad & Hamel, 1990)。

なお、本稿におけるCoreは、自社が内部に保持すべき経営資源や能力を広く示す概念であり、Prahalad and Hamel(1990)が提示したCore Competenceと完全に同義ではない。

しかし、そのCoreだけで顧客価値のすべてを実現できるわけではない。

外部資源をどのように選択し、育成し、統合し、バリューチェーンを設計するのか。

そこにSupply Managementの役割がある。

競争優位は、社内だけで生まれるものではない。

企業のCoreと供給市場を戦略的に結び付けることによって、初めて実現する。

それが、Supply Managementという体系的知識基盤の出発点なのである。


第2回予告

次回は、本稿の中核となる、

Competitive AdvantageがSupply Managementを決める

という考え方を取り上げる。

Everyday Low Price(EDLP)、Just in Time(JIT)、高級ブランド戦略を例に、「最適な調達戦略は企業の競争戦略によって異なる」ことを示し、Supply Managementがどのように競争優位を実現するのかを具体的に考察する。


References

Barney, J. B. (1991). Firm resources and sustained competitive advantage. Journal of Management, 17(1), 99–120. https://doi.org/10.1177/014920639101700108

Davenport, T. H., & Ronanki, R. (2018). Artificial intelligence for the real world. Harvard Business Review, 96(1), 108–116.

Ellram, L. M., & Carr, A. (1994). Strategic purchasing: A history and review of the literature. International Journal of Purchasing and Materials Management, 30(2), 9–19. https://doi.org/10.1111/j.1745-493X.1994.tb00185.x

Kraljic, P. (1983). Purchasing must become supply management. Harvard Business Review, 61(5), 109–117.

Nonaka, I. (1994). A dynamic theory of organizational knowledge creation. Organization Science, 5(1), 14–37. https://doi.org/10.1287/orsc.5.1.14

Porter, M. E. (1985). Competitive advantage: Creating and sustaining superior performance. Free Press.

Prahalad, C. K., & Hamel, G. (1990). The core competence of the corporation. Harvard Business Review, 68(3), 79–91.


執筆者

久原 勇作

NPO日本サプライマネジメント協会 代表理事
MBA CPSM MBCI 中小企業診断士他
日系大手企業にて国際提携, マーケティング(含むWebマーケティング), 統計的品質管理, 調達及びリスクマネジメント等の要職を歴任。専門的な体系的知識と実践の両輪が機能するキャリアデベロップメントを支援している。
MBAインストラクターを兼職:担当はCorporate Finance, Marketing, Leadership Management
コンサルタント専門は経営管理、人材育成、サプライチェーンマネジメント、事業継続マネジメント、リスクマネジメント、マーケティング

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