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サステナブル調達の現状と新潮流(全3回シリーズ)|第3回(最終回)DNPの考えるサステナブル調達の新潮流

田中 耕介

第3回 DNPの考えるサステナブル調達の新潮流

調達を価値創出機能へ進化させる

第2回で紹介した取り組みは、サプライチェーンの現状を把握し、課題を改善するための基盤です。しかし、事業環境が刻々と変化するなか、年次調査によって過去や現在の状況を確認するだけでは、将来の供給リスクを十分に捉えられません。

DNPが今後めざすのは、サプライチェーンに関する情報を継続的に収集・分析し、変化を先読みして、有事の意思決定や事業への提案につなげる仕組みです。

DNPの統合報告書は、原材料の安定調達を単なるコストではなく、事業継続性と競争優位性を支える価値の源泉と位置付けています。材料サプライチェーンの透明化とレジリエンス強化を進め、安定供給という「守り」を、新たな競争優位や「攻めの価値」へつなげる戦略的調達をめざしています。

DNPがめざすインテリジェンス機能

DNPが構築をめざす「インテリジェンス機能」は、情報を収集・保管するだけの仕組みではありません。

原材料を取り巻く地政学、規制、市況、物流、供給リスク、設備稼働、サプライヤー、人権・環境などの情報を収集し、AIによるデータクレンジング・統合と社員の経験・知見を組み合わせます。その情報を、サプライチェーンの最適化、迅速な意思決定、事業への提案につなげる構想です。

めざすのは、次の問いに組織として答えられる状態です。

  • どの事業、製品、原材料が影響を受けるのか

  • 供給上の制約となる箇所はどこか

  • どの兆候を事前に把握できるか

  • 代替材料や代替供給先は準備されているか

  • 誰が、どの時点で判断するのか

  • 調達部門から事業部門へ何を提案すべきか

その実現に向け、DNPは五つの施策を掲げています。

1.サプライチェーンの透明化

戦略製品を中心に、川上の供給構造を把握し、供給制約となる箇所を特定します。社内データ、AI分析、外部インテリジェンスを組み合わせ、「見えないリスク」を可視化する考えです。

今後は、企業単位の情報だけでなく、製品、原材料、製造拠点、原産国、物流ルートなどを関連付け、問題発生時に影響を受ける事業や製品を迅速に把握できる状態をめざします。

2.BCP施策の徹底

DNPは、グローバルなマルチソーシング、代替材料の事前検証、戦略在庫の最適化、物流ルートや調達構造の冗長化を進めます。戦略在庫では、供給の安全性と資本効率の両立を重視します。

代替材料についても、候補を登録するだけでなく、品質、機能、生産条件、顧客要求との適合性を平時に確認し、有事に切り替えられる状態をめざします。

3.戦略的パートナーシップ

重要・戦略サプライヤーを特定し、共同開発、情報共有、中長期の事業視点に基づく関係構築を進めます。短期的な価格交渉だけでなく、供給能力、技術的課題、人権・環境上の懸念などを共有できる関係を築く考えです。

この関係を通じて、代替材料、低炭素材料、再生材、物流改善、資源循環、新製品・新技術の共同検討へつなげ、調達をコスト機能から価値創出機能へ転換します。

4.三現主義による対話と改善

DNPは、国内外のサプライヤーについて、ESGと供給リスクの観点から現場・現物・現実を確認し、個別対話と改善支援を行う方針です。

書類だけでは、制度が現場で運用されているか、改善を妨げる原因が何かを十分に把握できない場合があります。現地確認や面談によって実態を把握し、サプライヤーと改善方法を検討します。

目的は、一方的な監視や取引先の排除ではありません。課題を早期に共有し、改善能力を高め、サプライチェーン全体の持続可能性を向上させることです。

5.デジタルと人的知見の融合

AIやデータによるリアルタイムの情報把握に加え、ベテラン人材が持つ暗黙知を形式知化・組織化し、属人的な対応から仕組みに基づく対応へ転換します。

過去の供給トラブル、材料特性、品質条件、取引経緯、現地事情などを組織の知識として蓄積できれば、情報の喪失を防ぎ、判断の速度と再現性を高められます。AIが人の判断を置き換えるのではなく、AI・データと人的知見を掛け合わせ、有事にも迅速に判断できる組織をめざします。

人権・環境・供給情報の統合

DNPがめざす高度化では、人権、環境、品質、供給、価格、事業継続を別々に扱うのではなく、相互に関連する経営情報として捉えることが重要になります。

原材料の供給国、製造拠点、人材採用の仕組み、紛争地域との関係、製錬所、物流経路などは、供給継続の問題であると同時に、人権・環境リスクにもつながります。

こうした情報を製品や事業と関連付けることで、調達部門は、供給先の分散、代替材料、製品設計、戦略在庫、物流、人権・環境上の予防措置などを事業部門へ提案できるようになります。

DNPがめざす姿

DNPの考えるサステナブル調達の新潮流は、次の変化に集約できます。

  1. 年次調査から、継続的な変化の把握へ

  2. 一次サプライヤー中心から、重要原材料の川上把握へ

  3. 個別テーマ管理から、供給・人権・環境情報の統合へ

  4. 問題発生後の対応から、代替手段を含む平時の準備へ

  5. 個人の経験依存から、AI・データ・組織知による判断へ

  6. 価格交渉中心から、重要サプライヤーとの価値共創へ

  7. モノを買う機能から、事業へ提案する機能へ

DNPがめざすのは、リスクを単に排除することではありません。変化の兆候を早期に捉え、供給途絶や人権・環境への負の影響を防ぐとともに、得られた情報を新たな材料、製品、技術、供給体制の構築につなげることです。

DNPの考えるサステナブル調達の新潮流とは、調達を「モノを買う機能」から、「インテリジェンスとパートナーとの協働を通じて、事業と社会の価値を創出する機能」へ進化させることだと言えます。

企業にとって、サプライヤーとサプライチェーンの強靭性は事業を支える「価値の源泉」なのです。

執筆者

田中 耕介

大日本印刷株式会社 購買本部所属。サステナブル調達とサプライチェーンマネジメントの実務に携わり、人権、環境、責任ある鉱物調達、GHG排出量、事業継続などに関するリスク管理を推進。サプライチェーンを価値創造の基盤へと変革する取り組みを進めている。1992年の入社以来、建装材、包装、出版、商業印刷など、幅広い製品分野の材料調達を担当。カード用ICチップの調達では、事業の立ち上げ段階から参画し、開発購買を推進した。2026年10月より調達業務改革に従事。

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