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原子力サプライチェーンに見る、消えかけた供給網をどう立て直すか(その2)――国・企業・海外市場、動き出した供給網の立て直し

臼井 健一

本稿は全3回シリーズの2回目です。前回「その1」では、再稼働が進む裏側で、撤退企業の増加や技能職の減少、部品の供給途絶といった形でサプライチェーンが静かに損なわれてきた実態と、その背景にある政策転換(GX脱炭素電源法)を見てきた。今回は、この課題に対して国・民間企業がどのような手を打っているのか、国内の取り組みと海外展開の動きを見ていく。

国の取り組み:プラットフォームで支える供給網の再生

経済産業省・資源エネルギー庁は2023年3月、日本原子力産業協会と共同で「原子力サプライチェーンプラットフォーム(NSCP)」を設立した。全国およそ400社の原子力関連企業を対象に、①戦略的な人材の育成・確保、②部品・素材の供給途絶対策と事業承継支援、③海外プロジェクトへの参画支援という3本柱で、個社の実情に応じた伴走支援を行う枠組みである。2026年に入ってからも第4回原子力サプライチェーンシンポジウムが開催され、対面・オンライン合わせて約500名が参加するなど、産業界の関心の高まりがうかがえる。同シンポジウムでは、電気事業連合会が将来的な原子力設備容量の減少可能性を指摘し、2040年代にはリプレースが必要になるとの見通しも示された。また、次世代炉開発に関するセッションでは、三菱重工業だけでなく日立GEベルノバニュークリアエナジー、東芝エネルギーシステムズ、IHI、日揮グローバル、三菱電機など、国内の主要メーカー各社がそれぞれの開発状況を報告しており、一社に閉じない産業横断の情報共有の場になっている点も特徴的だ。

人材面の取り組みも具体化している。NSCPでは、原子力発電所向けバルブを製造するメーカー各社による意見交換会や、実際の工場見学会を実施し、技術・技能の伝承方法について事業者間で知見を共有する場を設けている。ある企業では、震災後に新設案件がなく特定用途の部品発注に偏りが生じているとして、技術情報をできる限り文書化するとともに、工場敷地内に実際の配管を模した研修設備を設けて技能継承にあたっているという。国はこうした個社の取り組みに対し、原子力分野の製造・検査に関わるものづくり人材向けの実習講座を2023年度から委託事業として開始し、順次拡大している。あわせて、経済産業省と文部科学省が連携し、大学・高専等の教育機関とも協力しながら、若手人材の確保に向けたカリキュラム・講座開発も進められており、産業界単独ではなく、教育機関を巻き込んだ中長期的な人材供給の枠組みづくりが図られている。

あわせて、次世代革新炉の開発・建設に向けた技術開発・サプライチェーン構築支援事業として、機器・部素材のサプライチェーン高度化に資する研究開発や製造実証を対象にした補助金制度も継続的に公募されている。2026年に入ってからも複数回にわたり公募が更新されており、補助率は原則2分の1、上限27億円規模の交付が想定されるなど、国の本気度がうかがえる規模感になっている。資源エネルギー庁の審議会資料では、人材不足とサプライチェーン毀損のリスクを抱えたまま2040年以降の供給力の壁に直面しかねないとの強い危機感が示されており、単発の予算措置ではなく、継続的な発注のリズムをどう作るかが焦点になっている。

民間企業の取り組み:発注元が動く、供給網の立て直し

象徴的な動きが、三菱重工業を中核とした「革新軽水炉」の共同開発だ。関西電力・北海道電力・四国電力・九州電力の4社と連携し、出力120万キロワット級の次世代原子炉「SRZ-1200」の開発を進めており、2026年3月時点で基本設計が概ね完了したことが報告されている。この過程で三菱重工は、2025年7月ごろから原発の建て替え(リプレース)を見据え、200社以上の部品メーカーと調達協議を進めているとされる。新型炉の仕様概略をサプライヤー企業に提示し、部品調達の可否を書面で確認するという取り組みであり、調達できない部品については内製化を含めた代替策を検討する方針とも報じられている。これは、発注元企業が自ら供給網の棚卸しとリスク評価を行う、まさにサプライチェーンBCPの実務そのものと言える。

高速炉・高温ガス炉といった次世代炉の分野でも、それぞれ三菱重工業が中核企業として選定されており、機器メーカーや建設業者を束ねる役割を担っている。動きは三菱重工だけにとどまらない。IHIは、格納容器をはじめとする原子力発電所向け部品の生産能力を強化するため、今後3年間で200億円程度を投資し、横浜工場での製造ライン増設や設備更新を検討していると報じられている。世界的な次世代炉の新設需要の高まりを見据えた先行投資であり、既存の再稼働対応だけでなく将来の新設需要も見越した供給体制の拡充と位置づけられる。こうした大型投資は、部品メーカーにとっても長期的な発注が見込めるという安心材料になり得るものであり、発注元の投資姿勢そのものがサプライヤーの事業継続判断に影響を与えるという意味でも注目に値する。

海外展開を通じて技術と生産能力を維持しようとする動きも本格化している。日立GEベルノバニュークリアエナジーは、小型モジュール炉(SMR)「BWRX-300」について、炉内構造物や制御棒駆動機構といった性能・安全性に直結する主要機器を日本国内で製作し、カナダの案件に納入することを決定した。ポーランドでのBWRX-300展開についても設計開発が前進していると発表している。東芝エネルギーシステムズは革新型ABWR「iBR」の安全設計を進めているほか、IHIと日揮グローバルは米ニュースケール・パワー社のSMRプロジェクトへの参画状況を明らかにしている。三菱電機も計装制御システムなど、原子力プラントを支える周辺技術の展開を進めている。国内の新設案件が限られる中、海外プロジェクトへの参画を通じて技術力と生産能力を維持するという発想は、プラントメーカー各社に共通する戦略になりつつある。

発注元企業がサプライヤーの技術投資や技術継承にまで踏み込んで関与するこうした垂直統合的なアプローチは、半導体や自動車業界におけるサプライヤー育成の取り組みとも重なる構図であり、供給網再構築の一つのモデルケースとして参考になる。

世界的な需要拡大と国際競争:日本企業の海外展開という活路

原子力を取り巻く需要拡大は日本国内に限った話ではない。国際エネルギー機関(IEA)の見通しによれば、世界の発電量は2050年までに倍増する見込みで、中でも小型モジュール炉(SMR)の市場規模は2050年までに約5,000億ポンド(日本円でおよそ98兆円)に達するとの試算もある。現地報道によれば、英国では2025年6月、国内初のSMR建設事業者としてロールス・ロイスSMR社が選定され、国内サプライチェーンからの調達比率を7割とする目標が掲げられるなど、各国が自国の原子力産業基盤の育成に本腰を入れ始めている。

こうした国際競争の中で、日本企業が海外の主要プロジェクトに部材や技術で参画する動きも広がっている。横河電機は2026年に入り、ロールス・ロイスSMR社と、SMR向け基幹制御システムの設計からハードウェア供給、試運転までを担う協業を発表した。日立GEベルノバニュークリアエナジーのSMR「BWRX-300」も、炉内構造物などの主要機器を国内で製作しカナダへ輸出するほか、ポーランドでの展開に向けた設計開発も前進している。米国のニュースケール・パワー社のSMRにはIHIや日揮グローバルが参画しており、フランスのニュワードや韓国、中国も含めた各国のSMR技術が世界市場でしのぎを削る構図になっている。

もっとも、海外の新設プロジェクトが順風満帆というわけではない。欧米では長期にわたる建設空白の影響で、既存の大型軽水炉の新設案件でも遅延やコスト増加が発生しているとされる。2022年時点の政府資料によれば、フランスでは原子炉メーカーのフラマトム社が経営体制を刷新し、技術・人材の立て直しに取り組んでいるとの指摘があった(直近の経営状況は本稿執筆時点で確認できていない)。米英両国は、安全性を高めた大型軽水炉への支援と、SMRなど革新炉の研究開発支援という二本立ての大規模な支援策を打ち出しており、中国・ロシアが革新炉開発で存在感を強める中、原子力分野での技術的リーダーシップを取り戻そうとする動きが官民連携で加速している。国内の新設需要だけに頼らず、海外の成長市場に活路を見いだすことは、供給網を維持するための現実的な選択肢の一つだが、各国とも同じ課題――建設・調達の空白期間による技術と人材の劣化――と向き合っている点は、日本の状況と地続きであることも見えてくる。

ここまで、国のプラットフォーム施策、民間企業による供給網再構築の動き、そして海外市場への展開という3つの側面から、原子力サプライチェーンの立て直しに向けた取り組みを見てきた。最終回となる次回「その3」では、業界団体が果たしている役割を整理したうえで、これらの動きから調達購買実務者・経営層が何を学び、自社の調達戦略にどう活かせるかを考える。

主な参考情報

※本記事は、経済産業省・資源エネルギー庁、日本原子力産業協会、原子力規制委員会等の公開資料および報道情報をもとに、独自の視点で構成・執筆したオリジナル記事です。

執筆者

臼井 健一

NPO日本サプライマネジメント協会 理事 / 事務局長
1990年、東京電力株式会社入社。工務、企画、事業開発、技術業務革新、資材調達など、多岐にわたる事業領域で専門性を培う。国際調達および火力・水力・原子力発電設備の調達分野において、管理職・プロジェクトリーダーとして長年にわたり数々の調達改革を牽引。2025年、東京電力ホールディングス株式会社を定年退職。現在、NPO日本サプライマネジメント協会にて調達人材の育成とサプライマネジメント領域の高度化を推進中。M.Sc. (工学修士)

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