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調達BCPを「計画」から「経営のレジリエンス」へ ――見えないTier Nを捉え、変化に対応できるサプライチェーンをつくる|全3回(その3:最終回)

小山 元

前回(その2)では、調達リスクを生む要因の整理と、レジリエンスを高めるための実務的な4つのステップ、デジタル化の活用方法について解説しました。最終回となる本稿では、実際の事例をもとに、レジリエンスを組織に根づかせるための体制づくりと、調達担当者が明日から始められる実践的なアクションを紹介します。

6.ケースで考える:半導体不足から得られる教訓

半導体不足は、調達レジリエンスを考えるうえで象徴的な事例です。

自動車や産業機械などでは、半導体一個の不足が製品全体の出荷停止につながります。一方で、半導体は製造工程が長く、設備投資も大きく、代替サプライヤーへの切り替えには時間がかかります。さらに、設計変更や品質認証が必要であるため、供給停止が判明してから新たな調達先を探しても、短期間では対応できません。

この事例から、少なくとも四つの教訓が得られます。

  • 第一に、単価や購買金額だけで重要度を判断してはいけません。製品を止める部品は、金額が小さくても重要です。

  • 第二に、Tier 1のサプライヤーから「供給可能」と回答を得るだけでは不十分です。その背後にある製造拠点、ウェハー、材料、後工程、物流などを把握する必要があります。

  • 第三に、代替サプライヤーは、危機発生後に探すのではなく、平時から技術・品質・契約面で準備しておく必要があります。

  • 第四に、設計と調達を分離して考えてはいけません。特定部品への依存は、購買条件だけでなく、製品仕様や設計思想によって生まれている場合があります。

つまり、レジリエンスは調達部門だけの仕事ではありません。経営、設計、生産、品質、物流、IT、法務、財務を巻き込む全社的なテーマなのです。

7.実行を定着させるための組織とKPI

調達レジリエンスの取り組みが失敗する理由の一つは、活動が一時的なプロジェクトで終わってしまうことです。台帳を作成し、リスク評価を実施しても、その後更新されなければ、数年後には実態と乖離します。

定着のためには、以下の仕組みが必要です。

7-1 責任者と意思決定ルールを明確にする

危機発生時に、誰が判断するのかを明確にしておきます。調達部門だけで代替品を決められない場合も多いため、経営、事業部、設計、品質、物流、財務などの役割を定義する必要があります。

また、「どの条件で対策本部を立ち上げるのか」「どの水準で経営判断を求めるのか」といったエスカレーション基準も必要です。

7-2 定期的にシナリオ訓練を行う

BCPは文書を作るだけでは機能しません。実際に、あるサプライヤーが停止したと仮定して、情報収集、影響分析、代替検討、顧客対応までをシミュレーションします。

訓練では、あえて情報が不完全な状態を設定するとよいでしょう。現実の危機では、最初から正確な情報がそろうことは少ないからです。

7-3 KPIをコストだけにしない

調達部門の評価が購買価格やコスト削減だけに偏ると、在庫、二社購買、代替認定、サプライヤー支援への投資が進みにくくなります。

レジリエンスに関するKPIとして、以下が考えられます。

  • 重要品目の供給経路可視化率

  • Tier 2以降の重要情報把握率

  • 単一障害点の件数

  • 代替サプライヤーの認定率

  • 代替切替に要する期間

  • 重要品目の在庫カバー日数

  • サプライヤーのBCP確認率

  • リスク検知から初動までの時間

  • 復旧までの時間

  • シナリオ訓練の実施回数と課題解決率

これらは、コストと対立するものではありません。供給停止による損失を考えれば、レジリエンスへの投資は、経営上の損失を抑えるための投資です。

8.調達担当者が明日から始められること

大規模なシステム導入や組織改編をすぐに行えない企業でも、次の取り組みは始められます。

  1. 事業を止める可能性がある重要品目を10~20品目選ぶ

  2. その品目について、Tier 1の製造拠点と供給可能日数を確認する

  3. 原材料、専用設備、金型、物流経路の単一依存を確認する

  4. 代替サプライヤーと代替品の有無を整理する

  5. 代替切替に必要な技術・品質承認期間を確認する

  6. 「在庫日数」と「代替切替期間」を比較する

  7. サプライヤー、設計、品質、生産、物流と対応方針を共有する

  8. 一つの停止シナリオを設定し、机上訓練を行う

最初から完璧な可視化を目指す必要はありません。重要なのは、事業影響の大きいところから始め、得られた知見を次の品目、次の階層、次の事業へ広げることです。

おわりに レジリエンスは「余分」ではなく「競争力」である

これまで、調達における分散、在庫、代替先、冗長性は、コスト増加要因として捉えられがちでした。しかし、環境変化が激しい現在、効率性だけを追求することは、むしろ大きな経営リスクになり得ます。

重要なのは、効率とレジリエンスを対立概念として扱わないことです。すべてを二重化し、すべての在庫を増やす必要はありません。事業への影響が大きく、代替に時間がかかり、供給経路が集中している領域に、重点的に備えることが合理的です。

そのためには、まず自社のサプライチェーンを知ることが出発点となります。Tier 1だけでなく、その先のTier Nまで、どの品目が、どの拠点で、どの原材料と工程を経て、どの物流経路から届いているのかを把握します。そして、リスクを早期に捉え、関係者が同じ情報を見ながら、迅速に判断できる仕組みを整えます。

調達BCPは、危機発生時の対応計画にとどまりません。それは、事業を継続し、顧客との約束を守り、変化の中でも成長するための経営基盤です。

これからの調達部門に求められるのは、最も安く買うことだけではありません。変化を予測し、供給ネットワークを設計し、必要なときに事業を動かし続けることです。調達レジリエンスは、守りの施策であると同時に、企業の競争力そのものなのです。

全3回にわたってお届けした本連載は、今回で完結です。調達レジリエンスは、一度整備すれば終わるものではなく、構造の変化とともに継続的に見直していくべきテーマです。ぜひ自社の調達体制を振り返るきっかけにしていただければ幸いです。

執筆者

小山 元

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター

大手製造業、調達購買専門ファーム、国内総合コンサルティングファームと、Supply Managementを軸にキャリアを構築。MBA修了後、現職に至る。現在、PwCコンサルティングにてIndustry Transformation / Supply Management CoEをリードし、クロスインダストリーで調達高度化を推進。 【専門領域】調達・購買領域を軸に、調達高度化、コスト最適化、BPR/BPO、DXを活用した業務改革まで、戦略策定から実行・定着化まで一気通貫で全社・グローバル横断の変革を支援。 【対象業界】通信、半導体、製造、金融、小売、サービス、非鉄金属等。近年はグローバル営業展開、工場DX、調達改革、EC購買事業戦略等のプロジェクト等、多数リード。 【社外活動】国立大学・NPO法人との共同研究会をリード。 著書 : 『経営のための調達』。セミナー・講演実績多数。

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