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調達BCPを「計画」から「経営のレジリエンス」へ ――見えないTier Nを捉え、変化に対応できるサプライチェーンをつくる|全3回(その1)

小山 元

本稿は、全3回にわたってお届けする連載企画「調達BCPを『計画』から『経営のレジリエンス』へ――見えないTier Nを捉え、変化に対応できるサプライチェーンをつくる」の第1回です。今回は、なぜ今、調達レジリエンスが経営課題として注目されているのか、その背景と基本的な考え方を整理します。

はじめに 調達BCPは「万一のときの保険」ではない

「調達BCP」と聞くと、非常時に代替サプライヤーへ切り替えるためのリストを整備することや、一定量の在庫を持つことを思い浮かべる方が多いかもしれません。

もちろん、代替調達先や安全在庫は重要です。しかし、近年のサプライチェーン危機は、従来型のBCPだけでは対応しきれない複雑さを持っています。

自然災害、感染症、地政学リスク、サイバー攻撃、物流混乱、原材料価格の高騰、脱炭素規制、人権問題など、サプライチェーンを揺るがす要因は増えています。しかも、これらのリスクは単独で発生するとは限りません。ある地域の災害が、部品供給、物流、エネルギー、為替、顧客需要に連鎖し、企業経営全体に波及することがあります。

調達部門に求められているのは、単に「有事に備える」ことではありません。平時からサプライチェーンの構造を理解し、変化の兆候を把握し、重要な意思決定を迅速に行える状態をつくることです。

本稿では、なぜ調達レジリエンスが重要になったのか、どのようなリスクが存在するのか、実務上何を整備すべきかを、Why、What、Howの順に整理し、3回に分けて解説します。


1. Why:なぜ調達レジリエンスが注目されているのか

1-1 サプライチェーンの「効率化」が新たな脆弱性を生んだ

長年、SCMでは効率化が重視されてきました。少ない在庫、少ない取引先、長期的な量産効果、グローバルな分業、集中購買などです。これらは、コスト削減と品質向上に大きく貢献してきました。

一方で、効率化が進むほど、サプライチェーンのどこか一つが止まった際の影響は大きくなります。

例えば、ある部品を一社から大量に購入している場合、平時には価格交渉力や品質の安定というメリットがあります。しかし、そのサプライヤーが被災したり、設備トラブルを起こしたり、原材料を調達できなくなったりすると、代替手段をすぐには見つけられません。

また、サプライヤーを複数社に分散していても、実際にはその複数社が同じ地域、同じ原材料メーカー、同じ物流ルートに依存していることがあります。表面的には「複社購買」でも、実質的には単一障害点を抱えている可能性があります。

つまり、調達レジリエンスを考える際には、取引先の数だけを見てはいけません。供給網がどのようにつながっているのか、その構造を把握する必要があります。

1-2 危機は「想定外」ではなく、頻度の高い経営課題になった

近年、企業活動に大きな影響を与えた事象は枚挙にいとまがありません。

新型コロナウイルス感染症の拡大では、工場の操業停止だけでなく、国境閉鎖、港湾混雑、コンテナ不足、部品不足、需要急減と急回復が同時に起きました。自動車産業では半導体不足が長期化し、多くの企業で生産計画の変更や納期遅延が発生しました。

2021年には、ルネサスエレクトロニクスの那珂工場で火災が発生し、自動車向け半導体の供給に影響を与えました。半導体は一つの部品であっても、製品全体の生産を止める可能性があることが、改めて認識された事例です。

同じく2021年には、コンテナ船「Ever Given」がスエズ運河で座礁し、欧州とアジアを結ぶ主要航路が一時的に遮断されました。物流の遅延は、輸送中の貨物だけでなく、工場の生産計画、在庫、販売計画にも影響を及ぼしました。

さらに、ロシアによるウクライナ侵攻、紅海周辺の安全保障問題、異常気象、エネルギー価格の変動などにより、地政学と物流のリスクは日常的な経営課題となっています。

これらの事象から分かることは、危機が「数十年に一度の特殊なイベント」ではなく、企業が継続的に対応すべき前提条件になったということです。

1-3 調達リスクは、そのまま経営リスクである

調達部門が扱うのは、購買価格や納期だけではありません。供給停止は、売上、顧客満足、ブランド、キャッシュフロー、株価、法令遵守、さらには企業の存続に影響します。

例えば、重要部品の供給が止まれば、製造ラインの停止によって売上機会を失います。納期遅延により、顧客との契約上の問題が発生することもあります。緊急輸送や代替品の購入には追加費用がかかります。品質確認を十分に行わずに代替品を投入すれば、リコールや事故につながる可能性もあります。

さらに現在は、サプライヤーの人権問題、環境負荷、サイバーセキュリティ上の問題も、発注企業の責任として問われます。企業にとってサプライチェーンは、単なるコストセンターではなく、事業継続と企業価値を左右する経営基盤なのです。

2. What:調達レジリエンスとは何か

2-1 BCPとレジリエンスは同じではない

BCPは、災害や事故などの緊急事態が発生した場合に、重要業務を継続・早期復旧するための計画です。事前に対応方針や役割分担、連絡網、代替手段を定めることが中心となります。

一方、レジリエンスは、危機を予防し、影響を吸収し、変化に適応し、回復する組織能力を指します。そこには、危機発生後の復旧だけでなく、平時からの構造把握、脆弱性の低減、兆候の検知、意思決定の柔軟性が含まれます。

言い換えれば、BCPが「止まったときにどうするか」という計画であるのに対し、レジリエンスは「止まりにくく、止まっても早く変化できる状態」をつくる取り組みです。

調達レジリエンスを構成する要素として、次の五つが挙げられます。

  1. 可視性:どこから、何を、どのように調達しているかを把握する

  2. 予防力:脆弱性を特定し、事前に低減する

  3. 検知力:リスクの兆候を早期に捉える

  4. 対応力:関係者が迅速に意思決定し、行動する

  5. 回復・適応力:復旧するだけでなく、より強い構造へ変えていく

2-2 最初に見るべきは「Tier 1」だけではない

多くの企業は、まず直接取引しているTier 1サプライヤーのリスクを管理します。しかし、実際に供給停止の原因となるのは、Tier 2、Tier 3、さらにその先のTier Nであることが少なくありません。

例えば、完成品メーカーが部品メーカーから購入している場合、その部品メーカーが使用する特殊材料や半導体、化学品、金型、設備部品が、別の企業に依存している可能性があります。直接取引関係がないため、発注企業からは見えにくいのですが、そのTier Nの企業が停止すれば、Tier 1からの供給も止まります。

重要なのは、すべてのサプライヤーを完全に把握することではありません。限られたリソースを使い、事業影響の大きい品目について、重要な供給経路を優先的に把握することです。

この考え方を、ここでは「Tier N視点」と呼びます。Tier N視点では、企業単位ではなく、品目、工程、原材料、製造拠点、物流経路を、一つの供給ネットワークとして捉えます。

2-3 サプライヤー評価だけでは不十分

従来のサプライヤー評価では、財務状況、品質、コスト、納期、技術力などを点数化することが多くあります。しかし、サプライヤーの健全性が高くても、供給ネットワーク全体が脆弱であれば、リスクは残ります。

例えば、以下のような依存関係があります。

  • 複数のサプライヤーが同一の原材料メーカーに依存している

  • 複数拠点が同じ地域に集中している

  • 特定の港湾、空港、道路、航路に依存している

  • 代替可能なサプライヤーが存在しても、認定に半年以上かかる

  • 特殊設備や専用金型が一拠点にしかない

  • 製品仕様上、実質的に一社しか供給できない

  • サプライヤーのサプライヤーが、特定国のエネルギーや鉱物資源に依存している

したがって、評価の単位を「会社」から「供給ネットワーク」へ広げる必要があります。

次回(その2)では、実際に調達リスクを生む具体的な要因を整理したうえで、レジリエンスを高めるための実務的な4つのステップ、そしてデジタル化との向き合い方を取り上げます。

執筆者

小山 元

PwCコンサルティング合同会社
ディレクター

大手製造業、調達購買専門ファーム、国内総合コンサルティングファームと、Supply Managementを軸にキャリアを構築。MBA修了後、現職に至る。現在、PwCコンサルティングにてIndustry Transformation / Supply Management CoEをリードし、クロスインダストリーで調達高度化を推進。 【専門領域】調達・購買領域を軸に、調達高度化、コスト最適化、BPR/BPO、DXを活用した業務改革まで、戦略策定から実行・定着化まで一気通貫で全社・グローバル横断の変革を支援。 【対象業界】通信、半導体、製造、金融、小売、サービス、非鉄金属等。近年はグローバル営業展開、工場DX、調達改革、EC購買事業戦略等のプロジェクト等、多数リード。 【社外活動】国立大学・NPO法人との共同研究会をリード。 著書 : 『経営のための調達』。セミナー・講演実績多数。

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