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(連載第2回) 企業の競争優位は、なぜSupply Managementで決まるのか ― AI時代の大学教育とCPSMから考える競争戦略 ―(連載3回)

久原 勇作


第2回

Competitive AdvantageがSupply Managementを決める

― AI時代、Supply Management Professionalの役割はどう変わるのか ―

前回は、Supply Managementが調達購買活動から始まるのではなく、

Mission

Value Proposition

Core

Competitive Advantage

Supply Management

という企業戦略の流れの中に位置付けられることを説明しました。

では、Competitive Advantageが異なれば、Supply Managementはどのように変わるのでしょうか。

結論から言えば、

すべての企業に共通する「唯一最善の調達戦略」は存在しません。

顧客へどのような価値を提供し、何を競争優位とするのかによって、調達戦略、サプライヤーとの関係、組織、評価基準、そしてAIに与えるデータまで変わります。

AI時代だからこそ、この違いを理解することが重要になります。


3 Competitive AdvantageがSupply Managementを決める

Competitive Advantageとは、単なる企業の「強み」ではありません。

競合他社とは異なる価値を顧客へ継続的に提供し、その結果として持続的な成果を生み出す競争上の優位性です(Barney, 1991; Porter, 1985)。

何をCompetitive Advantageとするかによって、Supply Managementが最優先するものも異なります。

代表的な三つの例を考えてみましょう。


3.1 Everyday Low Price(EDLP)

Everyday Low Price(EDLP)は、単なる「安売り」ではありません。

顧客に対して、一時的な特売ではなく、日常的に競争力のある低価格を継続して提供する戦略です。

そのためには、その販売価格を可能にする競争力のある仕入価格とコスト構造を継続的に構築しなければなりません。

Supply Managementでは、Category Managementによる需要の集約、供給市場の拡大、仕様の標準化、長期契約、Global Sourcing、物流費・在庫費などを含めたTotal Cost of Ownership(TCO)の管理などが重要になります。

つまりEDLP企業にとってのSupply Managementは、

「一度だけ安く買うこと」ではなく、競争力のある仕入価格を継続的に実現できる供給構造をつくること

なのです。

AIを活用する場合にも、仕入価格、Spend、Commodity Price、物流費、為替、サプライヤーのCost Structure、契約条件、需要量など、コスト競争力を判断するためのデータが重要になります。


3.2 Just in Time(JIT)

Just in Time(JIT)では、競争優位のつくり方が異なります。

JITの本質は、単に「必要なものを必要な時に納入してもらう」ことではありません。

最終需要を起点として生産を平準化し、そのリズムに製造、物流、調達、さらに上流のサプライヤーまでを同期させるプル型のシステムです。

需要から上流の供給までが平準化・同期されることによって、工程間に滞留する在庫を極小化し、リードタイムを短縮するとともに、品質や供給上の異常を早期に顕在化させることができます。

そして経営的には、在庫として滞留する資金を圧縮することで、運転資本効率を高めることにもつながります。

その実現には、生産計画だけではなく、実需要、平準化された生産量、在庫水準、リードタイム、ロットサイズ、物流状況、品質変動、設備稼働状況、さらにはサプライヤーの生産能力までを一体として捉える必要があります。

つまりJIT企業におけるSupply Managementの役割は、

需要から製造、物流、調達、サプライヤーまでを平準化されたリズムで同期させ、在庫を極小化しながら安定したフローを維持すること

にあります。

したがって、AIへFeedするデータもEDLPとは異なります。価格やSpendだけではなく、需要、生産、在庫、リードタイム、品質、物流、設備能力、サプライヤーの供給能力など、サプライチェーン全体を同期させるためのデータが重要になります。


3.3 Luxury Brand

高級ブランドでは、Competitive Advantageの考え方が大きく異なります。

通常のValue Analysis(VA)では、製品の基本機能にまで遡って考えます。

例えば時計であれば、基本機能は「正確な時刻を示すこと」です。

しかし、Luxury Brandの顧客が高級時計を購入する理由は、時刻を知るためだけではありません。

顧客が購入しているのは、

所有する喜び、特別感、自己表現、ブランドへの共感、そして、その製品を所有することによって得られる体験

です。

つまりLuxury Brandでは、製品の物理的な基本機能を超えた、ブランドが生み出す情緒的・象徴的な価値そのものがValue Propositionの重要な部分になります。

そして、その価値を成立させるのがStoryです。

そのブランドは何を大切にし、何を受け継ぎ、なぜ長年にわたってそのブランドであり続けてきたのか。

そのStoryが、製品を単なる「モノ」から、「所有する喜び」をもたらす価値へと変えていきます。

したがってLuxury BrandにおけるSupply Managementで問われるのは、ブランドが顧客に約束している価値を理解し、それを供給戦略へ落とし込むことです。

品質、希少性、真正性、技術や技能の継承、供給量、トレーサビリティなどの意味も、ブランドによって異なります。それらは、それ自体が目的なのではなく、そのブランド固有のValue Propositionを実現するために選択されるSupply Managementの要素だからです。

したがって、AIに与えるデータも変わります。

品質履歴、供給能力、技術・技能、真正性、トレーサビリティといった供給側のデータだけでなく、顧客がそのブランドの何に価値を感じ、何を「所有する喜び」として認識しているのかという需要側のデータも重要になります。

「このブランドが顧客に提供する価値を、Supply Managementとしてどう実現するのか」

という問いになります。


4 AIは「最適な調達」を決められるのか

ここで、新しい問いが生まれます。

AIが市場探索、各種分析・予測、リスク監視、サプライヤー評価、さらには一定条件下での業務実行まで担うようになれば、AIが「最適な調達」まで決めてくれるのでしょうか。

実際、AI Agentは既に、RFx文書の作成、Supplier Performance情報の整理、購買手続きの支援、契約管理など、従来人が担ってきた複数工程を横断して支援する方向へ進んでいます(Institute for Supply Management, 2026a)。

しかし、答えはそう単純ではありません。

なぜなら、

企業によって「何を最優先するか」という判断基準が違う

からです。

Competitive Advantageが異なれば、Supply Managementが実現すべき価値も異なります。したがって、AIに与えるデータ、判断基準、そしてAIに担わせる役割も変わります。

つまり、AIを導入すればSupply Managementが高度化するのではありません。

どのようなSupply Managementを実現したいのかを人が設計できて初めて、AIを有効に活用できるのです

AIがデータを処理する前に、

「この企業にとって何が重要なのか」

を教えられなければなりません。

AIはBusiness Strategyから独立した存在ではなく、その実現を支援するOperating Modelの一部として設計すべきだという考え方も、現在のSupply ManagementにおけるAI導入議論と一致します(Institute for Supply Management, 2026b)。



5 AI時代、調達人財の価値は「処理」から「戦略」へ

生成AIの登場によって、「AIは人の仕事を奪うのではないか」という議論が広がりました。

しかし、実際に起きつつある変化は、職種が消滅するという単純なものではありません。

World Economic Forumの『Future of Jobs Report 2025』では、AI・情報処理技術や自動化の進展によって、定型的な職種が減少すると予測される一方、営業職などは大きな雇用増加が見込まれる職種に挙げられています。また、2030年までに既存スキルの39%が変化または陳腐化すると予測されており、AIは単純に職種を消滅させるのではなく、仕事の内容と求められる能力そのものを変えていくと考えられます(World Economic Forum, 2025)。

営業職を考えると、この変化は理解しやすいでしょう。

AIによって顧客情報の収集・分析、資料作成などが効率化されれば、人はそれらの作業から解放され、顧客の課題を理解し、提案し、交渉し、関係を構築するという、より高度で戦略的な役割へシフトすることができます。

Supply Managementでも、同じ構造の変化が起こります。

AIが供給市場の探索、調達データの分析・予測、サプライヤー評価、リスク監視、さらには購買処理まで担うようになれば、人間が情報収集や定型業務に費やしてきた時間は大きく減少します。

その結果、調達人財の役割は、「調達業務を処理すること」から、「供給市場を活用して企業の競争優位を強化すること」へ、さらに高度化していくと考えられます。

調達の仕事を三つの領域から見ると、この変化がより分かりやすくなります。

Transactional Purchasing

発注・変更、定型的な納期確認、見積回収、データ入力・照合、定型レポート、文書整理など、ルール化・標準化しやすい購買処理は、AIやAI Agentによる自動化が最も進みやすい領域です。

人間が大量の時間を費やしてきた定型業務をAIが担うことで、調達人財は、より高度な業務へ時間を振り向けることが可能になります。

Strategic Sourcing

供給市場の探索、支出分析、カテゴリー戦略、サプライヤーの評価・選定、交渉戦術などでは、AIが大量の情報を探索・分析し、複数の選択肢やシナリオを提示する一方、どの選択肢を採用し、どのような条件で供給市場から必要な経営資源を獲得するかという判断は、人間が担うことになります。

したがってStrategic Sourcingでは、AIによって人間の役割が小さくなるというよりも、より広い供給市場と大量の情報を前提として、企業にとって最適なSourcing Strategyを判別する能力が重要になります。

Supply Management

さらに視野を広げると、Supply Managementでは、個々の購買案件やカテゴリーだけではなく、企業が何を自らのCoreとして保持し、何を外部から獲得し、外部の技術、能力、知識、資源をどのように組み合わせて競争優位を構築・強化するのかまでが対象になります。

そこでは、企業内部のさまざまな要素と、供給市場で起きている変化を結び付け、企業全体としてどのような供給基盤とサプライチェーンを構築するのかを考える必要があります。

そしてAI時代には、さらに重要な役割が生まれます。

企業のMission、Value Proposition、Core、Competitive Advantageを理解した上で、Supply Managementとして何を実現すべきかを定義し、そのためにAIへどのようなデータを与え、何を分析・予測させ、どのような判断基準で評価し、どこまで実行させるのか。その仕組みそのものを設計し、運用し、継続的に改善することが求められます。

つまり、調達職の役割は、AIの「利用」にとどまらず、Supply Managementの体系的知識を基盤として、自社の戦略と職場の暗黙知をAIへ組み込み、企業固有のSupply Management Systemを構築する側へ移っていくのです。

AIによって定型的な購買処理が自動化され、探索・分析・予測能力が飛躍的に高まるほど、何をAIにさせるのかを構想し、自社の競争優位を構築・強化するAIシステムそのものを設計、運用、評価、改善できる人財の価値は、むしろ高まります。

これこそが、AI時代のSupply Management Professionalに求められる新たな役割です。

では、そのようなAIシステムを設計するために、Supply Management Professionalには、どのような知識が必要になるのでしょうか。



6 AIは「部分最適」も高速化してしまうリスク

そして、ここにもう一つ重要な問題があります。

生成AIは、Supply Managementだけでなく、システム開発そのものも変えつつあります。

これまで人が担ってきた、処理手順をプログラムとして記述し、機械が実行できる命令へ変換する「How」の多くを、生成AIが支援できるようになっています。

その結果、人の専門性は、「どう実装するか(How)」から、「なぜ必要なのか(Why)」「何を実現すべきなのか(What)」を定義する側へと、重心を移していきます。

近年のSoftware Engineering研究でも、生成AIが設計、実装、テストなど開発工程の広い範囲を支援する一方、人間の役割は、仕様の質、アーキテクチャ上の判断、そしてAIを監督・統制する側へ重心を移していくことが指摘されています(Gurgul et al., 2026)。

ここで、Supply Managementにとって重要な問題が生じます。

AIが高度になれば、必ずSupply Managementも高度になるのでしょうか。

必ずしもそうではありません。

実務経験や、調達実務に特化したテクニカルな学習だけをベースにAIシステムを設計すると、個々の経験領域や専門分野では合理的であっても、企業全体から見れば狭隘で部分最適な判断基準がAIへ組み込まれる可能性があります。

例えばJITでは、平準化と同期によって在庫を極小化し、運転資本効率を高めることが重要です。しかし、AIがその効率性だけを過度に最適化すれば、供給途絶や急激な需要変動に対する余力まで削減する可能性があります。

どこまで効率性を追求し、どこに意図的な冗長性を残すのか。

そこには、JITという個別の手法を超えた経営判断が必要になります。

Luxury Brandでも同様です。

品質、コスト、納期、供給能力などを個別に最適化しても、それらがブランドの真正性、希少性、技能の継承、Story、そして顧客が感じる「所有する喜び」とどのようにつながっているのかを理解しなければ、個々の調達判断は合理的でも、ブランド全体の価値を毀損する可能性があります。

つまり、問題はAIそのものではありません。

部分最適な知識体系をAIへ実装すれば、AIはその部分最適を、より高速に、より精緻に、そしてより広範囲に実行してしまう。

AIの能力が高まるほど、AIへ何を実装するのかを決める人間側の知識基盤が重要になるのです。

だからこそAI時代には、個々の専門知識を企業全体の視点から統合するための、体系的なSupply Managementの知識基盤が必要になります。

第1回で示した「体系的知識基盤 × 職場の暗黙知」は、ここで実際のAIシステム設計へとつながります。

では、その体系的なSupply Managementの知識基盤を、私たちはどのように獲得すればよいのでしょうか。


第3回予告

欧米では、Supply ManagementやSupply Chain Managementを企業競争力を支える専門領域として位置付け、大学に学位課程や専門プログラムを設けて体系的に教育してきました。

一方、実務の世界でも、大学とは異なる形で、Supply Management Professionalに求められる知識と能力の体系化が進められてきました。

その代表的な存在の一つが、1915年に設立され、Supply Managementから現在のEnd-to-End Supply Chainまで、Professionalの知識と能力の向上を担ってきた非営利専門団体、Institute for Supply Management(ISM)です。

ISMがProfessionalに求めているのも、個々の調達実務を遂行する能力だけではありません。企業戦略をSupply Management Strategyへ展開し、それを実現する調達組織と人財を設計・マネジメントし、財務、サプライチェーン、サプライヤー、リスク、データ、テクノロジーなどを統合しながら、Supply Managementという経営機能そのものを構築・変革していく能力までを対象としています。

第3回では、「AI時代のSupply Management Professionalを、どのように育てるのか」という視点から、欧米主要大学における教育、企業との研究連携、そしてProfessionalに求められる体系的な知識基盤について考察します。


References

Barney, J. B. (1991). Firm resources and sustained competitive advantage. Journal of Management, 17(1), 99–120.

Gurgul, V., Gubela, R., & Lessmann, S. (2026). The state of generative AI in software development: Insights from literature and a developer survey. arXiv.

Institute for Supply Management. (2026a, May 18). AI in action: Intelligent automation and the rise of agents. Inside Supply Management.

Institute for Supply Management. (2026b, May 12). From strategy to execution: Building the foundation for AI. Inside Supply Management.

Institute for Supply Management. (n.d.). About ISM. Institute for Supply Management.

Institute for Supply Management. (n.d.). CPSM®, CPSD® and APSM® Exam Overview. Institute for Supply Management.

Porter, M. E. (1985). Competitive advantage: Creating and sustaining superior performance. Free Press.

World Economic Forum. (2025). The future of jobs report 2025. World Economic Forum.

執筆者

久原 勇作

NPO日本サプライマネジメント協会 代表理事
MBA CPSM MBCI 中小企業診断士他
日系大手企業にて国際提携, マーケティング(含むWebマーケティング), 統計的品質管理, 調達及びリスクマネジメント等の要職を歴任。専門的な体系的知識と実践の両輪が機能するキャリアデベロップメントを支援している。
MBAインストラクターを兼職:担当はCorporate Finance, Marketing, Leadership Management
コンサルタント専門は経営管理、人材育成、サプライチェーンマネジメント、事業継続マネジメント、リスクマネジメント、マーケティング

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