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CPSM講座第3回:なぜ、すべてのカテゴリーを同じように買ってはいけないのか?

久原 勇作

― 供給市場の構造からKraljic Matrixを考える ―

前々回は、Purchasing、Sourcing、Procurement、Supply Managementの違いから、調達機能がどのように発展してきたのかを考えました。前回は、その中でもSourcingの基礎となる「カテゴリー」に焦点を当てました。

カテゴリーは、単なる類似品目の集まりではありません。その背後には、サプライヤーが競争する供給市場があります。したがって、カテゴリーマネジメントとは、支出を整理するだけの活動ではなく、供給市場を継続的に分析し、その市場に対する調達戦略を構築・実行する活動である、と説明しました。

では、供給市場を分析した後、どのように調達戦略を決めればよいのでしょうか。


「まず相見積り」は、いつでも正しいのか

調達部門ではコスト削減が重視されるあまり、「まず相見積りを取ろう」「競争入札にかけよう」という話になりがちです。もちろん、相見積りや競争入札は、価格の妥当性を確認し、競争を促すための有効な手段です。

しかし、次のような場合はどうでしょう。

  1. 特殊素材や特許品で、代替サプライヤーをすぐに見つけられない

  2. JIT(Just in Time)生産で、価格以上に生産との同期性や納入能力が問われる

  3. 重要なシステム開発で、価格だけではサプライヤーを選べない

  4. 支出額は少なくても、供給が止まれば工場全体が停止する部品がある

特殊素材のサプライヤーに対して、代替先がないまま価格競争だけを求めれば、関係を悪化させるかもしれません。JITで必要なのは、最安値よりも、必要なものを必要な時に確実に届ける能力です。システム開発では、技術力、実行力、セキュリティ、導入後の保守まで評価しなければなりません。

一方、汎用性が高く、多くのサプライヤーが存在する市場で、長期的な関係を優先し過ぎれば、競争を活用する機会を失うこともあります。

つまり、同じ調達プロセス、同じ競争方法、同じサプライヤー管理を、すべてのカテゴリーに適用することはできないのです。

この違いを二つの軸によって整理した代表的なモデルが、Kraljic Matrixです。Kraljicは、購買を単なる業務機能からSupply Managementへ転換する必要性を説き、購入品を「Profit Impact(利益への影響)」と「Supply Risk(供給リスク)」の二つの軸によって分類しました(Kraljic, 1983)。本稿では、Profit Impactをより実務的に捉え、「支出・事業影響」と表現します。

【図表1 供給リスクと支出・事業影響から考えるKraljic Matrix(筆者作成)】


縦軸は「供給市場の難しさ」を見る

Kraljic Matrixの縦軸はSupply Risk、すなわち供給リスクです。

供給リスクというと、サプライヤーの倒産、災害、地政学リスクなどを思い浮かべるかもしれません。しかし、ここで見るべき対象は、それだけではありません。

  • サプライヤー数

  • 市場の寡占度

  • 新規参入障壁

  • サプライヤーの切替えコスト

  • 代替品・代替技術の有無

  • 供給能力と需要のバランス

  • 生産拠点の地理的集中

  • 原材料・物流への依存

  • 技術変化の速さ

  • サプライヤー側の交渉力

などを総合的に評価します。

言い換えれば、供給リスクとは、そのカテゴリーを調達する供給市場が、買い手にとってどの程度複雑で、選択肢が制約されているかを表しています。

前回述べた「供給市場分析」は、Kraljic Matrixの縦軸である供給リスクを評価するための中心的な活動です。支出分析だけでは、この縦軸は見えてきません。社内の購買実績ではなく、社外にある供給市場へ目を向ける必要があります。


横軸は「どれだけ買っているか」だけではない

横軸は、原型ではProfit Impactとされています(Kraljic, 1983)。これを単純に支出額と理解すると、重要なカテゴリーを見落とす可能性があります。

確かに支出額は重要です。しかし、年間の購入金額が少なくても、それがなければ製造設備が停止する部品や、顧客へのサービスを提供できなくなるシステムがあります。

したがって横軸では、そのカテゴリーが自社にとってどれほど重要かを、次のような視点から評価します。

  • 支出額

  • 原価に占める割合

  • 収益性への影響

  • 品質への影響

  • 売上・顧客への影響

  • 操業停止時の損失

  • 技術・イノベーションへの影響

本稿では、これらをまとめて「支出・事業影響」と表現します。

支出分析は横軸を評価するための重要な情報ですが、それだけで横軸が決まるわけではありません。事業部門、技術部門、生産部門、品質部門などと対話し、そのカテゴリーが企業活動にどのような影響を及ぼすかを理解する必要があります。


象限によって「買う目的」が変わる

二つの軸を組み合わせると、カテゴリーは四つの象限に分類されます。

  1. Non-critical:取引コストを下げる
    供給リスクと事業影響がともに低いカテゴリーでは、仕様の標準化、発注・請求処理の自動化、サプライヤー数の適正化などにより、取引事務に要するコストを下げます。

  2. Leverage:競争を活用する
    事業影響は大きいものの、供給市場に十分な競争があるカテゴリーでは、需要集約、競争入札、市場価格やコスト構造の分析などによって、買い手の交渉力を活用します。

  3. Bottleneck:供給を守る
    支出額や事業影響は比較的小さくても、代替先が少ないカテゴリーでは、価格低減よりも供給確保を優先します。安全在庫、代替品の開発、第二供給源の育成、BCPなどが重要になります。

  4. Strategic:供給市場と共に価値をつくる
    供給リスクと事業影響がともに高いカテゴリーでは、短期的な価格競争だけでは対応できません。経営層を含む関係構築、共同改善、共同開発、長期契約、供給能力への投資などが検討対象になります。

このように、同じ「買う」という行為でも、カテゴリーによって目的が異なります。購買ポートフォリオの価値は、分類すること自体ではなく、分類結果によって戦略や行動を変えるところにあります(Gelderman & Van Weele, 2003)。


分類するのはサプライヤーか、カテゴリーか

Kraljic Matrixを「サプライヤー分類表」として利用している企業もあります。しかし、基本的な分析対象は、サプライヤーそのものではなく、購入品やカテゴリーです。

同じA社から購入していても、汎用品、特注部品、保守サービス、共同開発品では、供給市場も自社事業への影響も異なります。すべてを一括して「A社は戦略的サプライヤーである」と評価すると、本来は競争を活用できる取引まで固定化してしまう可能性があります。

重要なのは、

「A社は戦略的サプライヤーである」と最初から決めるのではなく、「どのカテゴリーについて、なぜA社との戦略的関係が必要なのか」を考えることです。

ただし、カテゴリーを個別に分類するだけでは、複数カテゴリーにまたがるサプライヤーとの関係全体を説明できない場合もあります。ポートフォリオ分析は有用ですが、実際の企業間関係を単純化し過ぎる限界も指摘されています(Dubois & Pedersen, 2002)。カテゴリー分析とサプライヤー関係の全体像は、区別したうえで組み合わせる必要があります。


Kraljic Matrixは答えではなく、議論の出発点

カテゴリーを四つの象限に配置すれば、自動的に調達戦略が決まるわけではありません。

同じStrategicカテゴリーでも、サプライヤーと共同開発する、自社が設備投資を支援する、長期契約を締結する、第二供給源を育成する、内製化する、あるいは設計を変更して依存を下げるなど、複数の選択肢があります。

Kraljic Matrixの役割は、唯一の答えを出すことではありません。

カテゴリーごとに、

  • 調達の目的は何か

  • 供給市場をどのように活用するのか

  • どのような契約が適切か

  • 競争と協働をどのように使い分けるのか

  • サプライヤーとどのような関係を構築するのか

という議論を始めることにあります。


しかし、四つの象限が分かっただけでは、具体的な戦略はまだ決まりません。Leverageカテゴリーでは、本当に競争入札を行えばよいのでしょうか。Strategicカテゴリーでは、すべてのサプライヤーと長期的なパートナーシップを築くべきなのでしょうか。

次回は、各象限における調達戦略、契約、競争方法、サプライヤー関係の違いを、さらに具体的に考えます。


References

Dubois, A., & Pedersen, A.-C. (2002). Why relationships do not fit into purchasing portfolio models—A comparison between the portfolio and industrial network approaches. European Journal of Purchasing & Supply Management, 8(1), 35–42. https://doi.org/10.1016/S0969-7012(01)00014-4

Gelderman, C. J., & Van Weele, A. J. (2003). Handling measurement issues and strategic directions in Kraljic’s purchasing portfolio model. Journal of Purchasing and Supply Management, 9(5–6), 207–216. https://doi.org/10.1016/j.pursup.2003.07.001

Kraljic, P. (1983). Purchasing must become supply management. Harvard Business Review, 61(5), 109–117.

執筆者

久原 勇作

NPO日本サプライマネジメント協会 代表理事
MBA CPSM MBCI 中小企業診断士他
日系大手企業にて国際提携, マーケティング(含むWebマーケティング), 統計的品質管理, 調達及びリスクマネジメント等の要職を歴任。専門的な体系的知識と実践の両輪が機能するキャリアデベロップメントを支援している。
MBAインストラクターを兼職:担当はCorporate Finance, Marketing, Leadership Management
コンサルタント専門は経営管理、人材育成、サプライチェーンマネジメント、事業継続マネジメント、リスクマネジメント、マーケティング

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