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次世代へのヒント:現役時代に工夫した調達事例③

上原 修

欧州製の型銅製造設備の導入

今回は、新規プロジェクトにおける購買・調達・物流機能のあり方を考える。

国内の非鉄金属大手が、日本で初めて欧州製の縦型連続鋳造装置を導入した際の体験談である。プロジェクト自体は最終的に所期の成果を得たものの、時間、経費、人員などに大きな負担が生じた。その背景には、当時、プロジェクトマネジメントの考え方が社内に十分浸透しておらず、ヒト・モノ・カネに加えて「情報」の管理も不十分だったことがあると筆者は考えている。

はじめに、当時のプロジェクトの概要を述べる。

1.計画概要(必達目標)

設備予算名「型銅製造設備」

①    競合会社に対して競争力のある製品を供給すること

②    大型無酸素銅が生産できること 

③    原料としてスクラップを容易に使用できること  

④    生産能力は販売量を勘案した月産7000トンとする 

⑤    競合会社の新工場が稼働する前に完成すること

⑥    自社技術開発では時間を要するものについては海外より技術導入すること

2.計画の背景

2-1.

国内の型銅外販市場ではM社が高いシェアを有し、同社は型銅部門の収益基盤を背景に、カソード市場で多様な戦略を取り得る状況にあった。一方、当社の型銅事業は多品種少量生産で、月産約2,000トン、年間約3.8億円の赤字を計上していた。そこで、競争力のある生産規模と設備を確保するため、D社との合弁により本事業を推進することとなった。

2-2.

競合するM社の銅ケーク/ビレットは、自動車部品、半導体、溶接電極、航空宇宙など幅広い分野で使用され、板、条、管、棒、線、鍛造品などの素材となっていた。一方、当社は大阪と福島県いわき市の二拠点で型銅製品を製造し、多様な顧客需要への安定供給を図っていた。

製品群には、タフピッチ銅、りん脱酸銅、無酸素銅のほか、無酸素銅を基材としてクロム、ジルコニウム、ニッケル、銀などを添加した高機能銅合金が含まれていた。

3.「型銅設備」(形銅・型銅の製造や加工を行う設備)について

型銅設備とは、管、棒、板などの加工用素材を溶解・鋳造・加工するための設備であり、一般に連続鋳造、押出、圧延、熱処理(焼鈍)などの工程設備から構成される。

OFC型銅(無酸素銅)設備は、酸素含有量を低く抑えた高純度銅を製造・加工するための設備である。主な構成要素には、雰囲気を制御した溶解・鋳造設備、圧延・伸線設備、品質管理・分析機器などがある。なお、純度や酸素濃度の規格値は製品規格によって異なるため、個別仕様で確認する必要がある。

4.型銅設備(鋳造機)メーカーについて

当時、検討対象となった主なメーカーは、ドイツのクルップ社、フィンランドのオウトクンプ社、米国のロマ社の3社であった。

4-1.

Outokumpu社:フィンランドのヘルシンキに本社を置く素材企業である。現在はステンレス鋼を主力とし、循環型経済と低炭素化を重要テーマに掲げている。2025年の公表資料によれば、約30カ国で約8,600人を雇用し、売上高は約55億ユーロ、製品の再生材比率は97%である。設備導入当時と現在では事業構成が異なるため、本稿では沿革上の参考情報として位置づける(出典:Outokumpu, Annual Report 2025)。

 

Outokumpu (Unternehmen)

図1:オウトクンプ・ディレンブルク工場(撮影:Otto Domes、CC BY-SA 4.0。出典URL:https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Outokumpu_Dillenburg.jpg)。本稿も当該画像部分について同ライセンス条件に従う。

4-2.

クルップ・インダストリーテクニーク(Krupp Industrietechnik):クルップ・グループで重機械・プラントエンジニアリングを担った企業であり、連続鋳造設備などを手掛けた。1989年にMannesmann Demagへ統合され、その後、関連技術とサービスはSMS groupへ承継されたとされる(出典:SMS group『Krupp Industrietechnik』)。

参考 ドイツの連続鋳造機メーカー・テクニカ・グース(Technica-Guss)は、1963年に西ドイツで創業し、水平連続鋳造技術で主導的役割を果たした。クルップとの関係であるが、重工業のクルップ(Krupp)傘下等を経て「クルップ・テクニカ(Krupp Technica Horizontal-Stranggiessanlagen GmbH)」へ移行した。プラント事業の再編により、現在はSMSグループの鍛造・鋳造プラント部門に組み込まれている。同社の技術や関連部門は、歴史的経過の中でクルップ・テクニカ(Krupp Technica)等を経て、最終的にSMSグループ(SMS group)に統合された。これらは、主に日本の多くの鋳造メーカー(日本鋳造や阪部工業など)へ水平連続鋳造プラントの技術導入が行われた。

Krupp Industrietechnik GmbH (formerly: Krupp Industrie- und Stahlbau GmbH)

図2:クルップ・インダストリーテクニーク 電気アーク炉(出典: SMS group, https://www.sms-group.com/company/our-brands/heritage-brands/krupp-industrietechnik

5.納入実績と経験

検討先の一つは、ベルギー・ホボケンの製錬所で採用されていた設備・操業方式であった。同製錬所ではクルップ社の鋳造設備と米国企業の鋳型が使用されており、現地で品質や操業実績を確認した。なお、ホボケン型転炉は銅製錬工程の設備であり、型銅の連続鋳造設備とは機能が異なる。本稿では、同一製錬所における設備評価の背景として言及する。

[画像の権利者および利用条件を確認できないため、ホボケン型転炉の画像は削除した。]

6.メーカー選定理由

現地調査では、ホボケン製錬所の製品品質と操業実績を確認した。クルップ社の大型鋳造設備と米国企業の鋳型を採用すれば、現地で蓄積された操業知見について訓練を受けられる可能性があった。そこで、納入実績、技術支援体制、訓練機会などを総合的に評価し、クルップ社を採用した。

クルップ社

全連鋳15基・ 半連鋳35基・横連鋳280基

オートクンプ社

全連鋳1基・ 半連鋳1基・横連鋳280基

以上が計画からメーカー選定までの経緯である。上流段階の検討の多くは事業部門内部で進められ、購買、法務、物流などの支援部門が関与する前に主要条件の大半が固まっていた。

7.プロジェクトマネジメントについて

本件を分析するために必要なプロジェクトマネジメントの視点

ここでプロジェクトマネジメントの一般論を網羅することが目的ではない。本件で生じた手戻り、費用増、責任の空白を理解するために必要な概念に限って確認する。

7-1)本件を『プロジェクト』として捉える意味

本件は、国内初となる海外製設備を、限られた期間と予算で導入し、操業可能な状態まで立ち上げる一回限りの取り組みであった。したがって、通常の設備購買ではなく、技術、購買、法務、物流、据付け、操業訓練を統合する全社横断プロジェクトとして扱う必要があった。

7-2)プロジェクト憲章が必要だった理由

本件で必要だったのは形式的な文書ではなく、①設備導入の目的、②完成・検収の定義、③予算と工程の前提、④参加部門、⑤プロジェクト責任者の権限を開始時点で合意することであった。これが明文化されなかったため、事業部門が主要条件を先行して決め、購買・法務・物流は後工程の処理担当となった。

7-3)本件特有のプロジェクト条件

本件には、国内初導入で前例がないこと、海外サプライヤーとの言語・商慣行の違い、設備本体だけでなくソフトウェア、据付け、試運転、訓練が一体であること、後工程ほど変更費用が急増すること、という特徴があった。これらは、購買部門を上流から参加させるべき理由そのものである。

7-4)必要だった組織体制

事業部門を中心に、設備技術、操業部門、購買、法務、物流、財務・経理を正式メンバーとする横断体制が必要だった。特に購買部門には、サプライヤー評価、契約条件、支払条件、再委託先、派遣要員、保証・検収条件を統合して管理する役割を与えるべきであった。

7-5)責任と権限の一致

名目上の責任者を置くだけでは不十分である。本件では、実務責任を負う人物が兼務で、本務を優先せざるを得ず、工程横断の意思決定者が実質的に不在となった。責任者には、部門間の調整、条件変更、追加費用、サプライヤーへの是正要求を決定できる権限が必要だった。

7-6)RACIで明確にすべきだった事項

RACIで特に整理すべきだったのは、サプライヤー選定、契約締結、設計承認、出荷承認、据付け、試運転、性能検収、派遣要員の承認、訓練修了、保証対応である。本件ではResponsible(実行責任者)とAccountable(最終責任者)が曖昧で、購買・法務・物流もConsulted(協議先)として十分組み込まれていなかった。

7-7)本件における成功基準

成功は、設備を予定日に出荷・据付けすることではなく、所定の品質と能力で安定稼働し、操業要員が自立して運転でき、総費用が承認範囲内に収まることで評価すべきだった。出荷日や契約支払日を達成しても、未完成機器、追加派遣、試運転の長期化が生じれば、プロジェクト全体としての成功とはいえない。

7-8)本件の失敗を評価する視点

設備は最終的に稼働したため、プロジェクト全体を単純に失敗と断定することは適切でない。一方、工程遅延、追加費用、要員資格の不一致、情報共有不足、支援部門の後追い参加は、プロジェクト管理上の明確な未達である。本稿では、最終成果だけでなく、そこに至る過程で回避できた損失を問題とする。

7-9)本件で発生した固有の問題と対策

本件の問題は、一般的な『コミュニケーション不足』という一語では説明できない。次の要因が相互に連鎖していた。

① 購買部門の参加が遅かった:設備メーカー、価格、納期が事業部門内で事実上決まった後に、購買部門へ契約締結と納期管理が依頼された。そのため、競争性の確認、サプライヤーのデューデリジェンス、契約スキームの比較を十分に行えなかった。対策は、FS・予算策定・RFP設計の段階から購買部門を正式メンバーとすることである。

② 責任者と意思決定経路が曖昧だった:名目上の責任者、実務担当者、工場、事業部、設備技術部の間で、誰が工程全体を判断するのかが明確でなかった。対策は、Accountableを一人に定め、変更・追加費用・出荷承認の権限を明文化することである。

③ 工程と支払条件の設計が連動し過ぎた:マイルストーン払いが出荷日に強く結び付いた結果、設備の完成度より出荷時期を優先させる誘因が生じた。対策は、支払条件を単なる日付ではなく、設計承認、工場受入試験、提出図書、性能確認などの客観的な達成条件と結び付けることである。

④ 出荷判定が不十分だった:部材や機器の完成度がそろわないまま出荷が進み、国内での組立て、調整、試運転に負担が移った。対策は、出荷前検査(FAT)、パンチリスト、未完了項目の責任と期限、出荷承認者を契約と工程表に定めることである。

⑤ 派遣要員の資格と役割を確認しなかった:エンジニア、テクニシャン、スーパーバイザーの呼称に依存し、個々の資格、経験、担当範囲、単価区分の確認が不十分だった。対策は、候補者の経歴書・資格証明・実績を事前承認の対象とし、不適格者の交代権と費用調整方法を契約に定めることである。

⑥ 再委託構造を把握していなかった:契約相手のブランドや納入実績を重視する一方、実作業を担う下請け・派遣要員まで十分確認できていなかった。対策は、重要業務の再委託先開示、再委託への事前承認、元請けの一貫した履行責任を契約条件とすることである。

⑦ 言語と提出文書の管理が不十分だった:共通言語、承認図、仕様書、変更記録、試験記録の扱いが統一されず、技術者間・部門間で認識差が生じた。対策は、契約言語、正式文書、版管理、承認期限、変更管理手順を定め、単一の文書管理基盤を使用することである。

⑧ 操業移管と訓練の完了条件が曖昧だった:据付け完了、試運転、仮稼働、性能検収、引渡し、本稼働の境界が明確でなく、サプライヤーの支援期間と発注者側の自立条件も不明確だった。対策は、各段階の完了基準、責任分界、訓練内容、修了判定、保証開始日を契約前に合意することである。

以上は個人の能力や国民性の問題ではない。購買を含む専門部門を上流から組み込み、技術条件、商務条件、工程、要員、情報を一体として管理する仕組みがなかったことが、共通する根本原因である。

7-10)エンジニアとテクニシャンの違い:技術者と技能者

欧州から派遣される人員について、エンジニアとテクニシャンの役割・費用区分を十分確認しなかったため、立上げから試運転までの工程と費用に差異が生じた。職名の意味は国、資格制度、企業によって異なるため、名称だけで判断せず、契約上の役割、能力、資格、単価を確認する必要がある。

本稿では便宜上、次のように整理する。

テクニシャンは、据付け、調整、保守、操作、修理などの現場実務を担う専門職である。高度な技能と経験を必要とし、エンジニアの単なる補助者とは限らない。担当範囲は国の制度や企業の職務設計によって異なる。

エンジニアは主として設計、解析、開発、技術判断を担い、テクニシャンは主として設備の据付け、操作、保守、調整などを担う。ただし、両者の境界は一律ではない。ドイツではIngenieurなどの称号が州法上保護される一方、Technikerも体系的な職業教育と実務経験を備えた専門職である。契約では、職名ではなく作業範囲と資格要件を定義すべきである。

資格

役割

教育

特徴

その他

エンジニア(Ingenieur)

製品の設計、研究開発、全体計画の立案。

 

総合大学(Universität)や単科大学(TU)などで理論的な工学を専攻。

「Ingenieur(インジニール)」という称号は法律で保護されており、資格者以外は名乗ることができない。

エンジニアが「考える・描く」中心

 

テクニシャン(Techniker)

設計図の具体化、現場の製造・品質管理、トラブル対応。

デュアルシステム(アウスビルドゥング)や職業学校(Fachschule)を経た高度技能者。

マイスター制度などとも連動し、現場における極めて高い実践力と専門知識を持ちます。

テクニシャンが「作る・維持する」中心を担う

 

この区分は、派遣者の業務内容だけでなく、日当、航空運賃、旅費、宿泊費などの費用条件にも影響した。本プロジェクトでは、日本初導入の設備であり、組立て、立上げ、調整、試運転、引渡し、本稼働までが想定以上に長期化した。発注者側にも準備不足があり、サプライヤーだけに原因を帰すことはできない。だからこそ、双方の責任範囲と派遣要員の要件を契約前に明確にすべきだった。

具体的には次の通りの経費が相当発生した:

①日当、②宿泊・生活費、③旅費交通費、④雑費である。

エンジニアとテクニシャンでは、契約上の単価や渡航条件が異なる場合がある。本件では、エンジニアの日当が8万8,000円、テクニシャンが4万5,000円と設定され、航空座席の条件にも差があった。これらは当時の個別契約条件であり、職種一般の相場や当然の取扱いを示すものではない。

 

8.今回の連続鋳造装置プロジェクトの要点整理

本プロジェクトで確認された主な課題は、次のとおりである。

①    プロジェクトチームの未完成

②    購買調達物流など支援部門の位置づけ曖昧でチームに不参加

③    欧州のサプライヤーとの意思疎通難

④    提携先企業のSWOT分析未完

⑤    工程管理における責任分担の不明確さ

⑥    ハードウェアに付随するソフトウェアの知識不足

⑦    計装・制御機器を担当する技術者間の連携不足

⑧    共通言語の不統一(ヨーロッパ言語と日本語でなく英語とするなど未決)

⑨    新規装置の立ち上げを重視し過ぎ(ハードが完成するも動かない)

⑩    契約金額と分割支払時期に合わせて工程を組む間違い

⑪    派遣技師(テクニシャンかエンジニアか)の資格証明不備

⑫    サプライヤーとの相互信頼の不足

⑬    正式稼働までの訓練期間の不明確

⑭    承認図など提出書類の相互不理解

⑮    海外サプライヤーの下請け構造の未精査

 

以上を踏まえ、購買部門の関与という観点から要点を整理する。

I.             重要なプロジェクトなのに、事業の企画段階から購買部門が参加していない

II.           事業部門は、自部門の専門知識をもとに設備メーカーを先行して選定し、購買部門による市場調査や取引条件の検討が十分に行われなかった

III.         購買、法務、物流などの支援部門は後から参加し、事務処理中心の役割となった

IV.          正式なプロジェクトチームと統合的な意思決定の場が整わず、各部門が個別に対応した

V.            競合より早く立ち上げたいという焦りが、要員、資金、情報の管理不足や、部材が十分にそろわない段階での出荷につながった

VI.          マイルストーン払いの条件が出荷時期と強く結び付いていたため、完成度の確認より出荷が優先される誘因が生じた。これはサプライヤーの意図を断定するものではなく、契約設計上のリスクとして捉えるべきである

VII.        サプライヤーの財務、要員、技術、組織、再委託体制に関するデューデリジェンスが不十分で、後工程の負担が増えた

 

9.反省と教訓

サプライヤー分析とは、候補企業の品質、コスト、納期、技術、財務、法令遵守、供給継続性などを調査・評価する活動である。QCDは重要な基本項目だが、大型設備では、技術支援、要員資格、再委託、知的財産、保証、事業継続なども評価する必要がある。

I.       主な評価項目品質(Quality): 不良品がないか、決まった基準を満たしているか

II.     コスト(Cost): 価格が適正か、安く抑える工夫があるか

III.   納期(Delivery): 約束した日に品物が届くか

IV.    経営・その他: 会社の財務が安全か、法律や環境を守っているか

分析の進め方

  •   データ収集と評価・改善:取引実績、監査結果、財務・技術情報などを収集し、基準に沿って評価したうえで、改善事項を協議する

  •   リスク管理: 一社に頼り過ぎないようにして、会社全体の安心な調達を守る

 

海外から資機材を導入する際には、供給元との直接かつ継続的な意思疎通が重要である。設備導入と操業開始を急ぐ場合でも、事業部門だけで判断せず、購買、技術、法務、物流、財務などが横断的に関与すべきである。

以上の基本を確認したうえで、本件の反省点を整理する。

本件では、正式なプロジェクトチームが明確に構成されず、実務上の責任者と権限が曖昧だった。設備を据え付ける事業所、工場、本社事業部、設備技術部、購買部の関係も十分整理されず、全体会議や情報共有が円滑に行われなかった。事業部門が予算と主要情報を管理し、他部門が都度照会する状態であったため、支援部門が上流から専門性を発揮しにくかった。

図4:Porter(1985)の価値連鎖を参考に筆者作成

例えば、購買部門には、事業部門が既に選定したメーカーとの契約締結と納期管理が依頼された。予算策定段階で価格と納期が実質的に固まっていたため、購買部門がサプライヤー評価や契約条件の設計に関与できる余地は限られていた。また、契約を急がなければ事業開始が遅れるという圧力があり、法務、物流、人事・労務を含む支援機能との検討が後手に回った。派遣要員の職務区分、単価、旅費、資格要件も、こうした上流段階で確認すべき事項であった。

10.まとめ(次世代への提言)

新規設備の導入では、必要に応じて経験あるエンジニアリング会社を活用することも選択肢となる。本件では自社主導で進めたが、海外設備メーカーに関する情報収集と社内連携が遅れた。重要なのは特定の個人を原因とみなすことではなく、担当者が交代しても事実、判断根拠、課題が引き継がれる仕組みを整えることである。

 

次世代の担当者には、取引先の経営方針、組織、技術、人員、再委託体制を事前に把握することの重要性を伝えたい。SWOT分析や現地担当者との対話も有効だが、それだけでなく、客観的な証拠と部門横断の審査が必要である。全社プロジェクトでは、事業部門と支援部門を対立的に捉えず、それぞれの専門性を早期から組み合わせ、責任者と意思決定ルールを明確にするべきである。

現在はオンライン会議や遠隔映像を活用し、現地に出張しなくても頻繁に対話できる。信頼関係は重要だが、信頼だけに依存せず、合意事項を文書化し、検証可能な情報に基づいて判断することが国際取引では欠かせない。

纏めると次の通りである:

1)派遣技師・スーパーバイザーの資格確認:据付け、試運転、引渡しまでに派遣される要員について、経歴、資格、実績、担当業務を事前に確認する。職名だけで適格性を判断せず、承認権、交代条件、単価区分を契約に定める。

2)プロジェクト憲章:早期立上げの圧力が強い場合ほど、目的、範囲、役割、権限、主要リスクを簡潔に文書化する。RACIなどを用い、実行責任と説明責任を明確にする。

3)保証条項:設備は稼働後に性能が明らかになる。保証期間、性能保証、検収基準、瑕疵対応、予備品、技術支援、顧客からの不具合情報への対応を、法務・技術・購買が共同で契約に定める。『2年間』などの期間は個別契約によるため、一般論として固定しない。

4)トレーニング:研修の対象者、期間、内容、到達基準、評価方法、修了要件、教材の権利と利用範囲を契約前に定める。

5)FS(フィージビリティ・スタディ):新規事業やプロジェクトについて、技術、財務、法務、運用などの観点から実現可能性と採算性を事前に検証する。節目ごとに前提と実績を比較し、継続、変更、中止を判断する。

※後日談:派遣要員の一人について、契約上想定した資格・経験と実際の経歴に差異があることが判明した。そこで、当該要員の業務内容と費用区分を見直し、サプライヤー経営者との協議を経て契約金額を調整した。この経験から、国籍や出自ではなく、派遣要員ごとの資格、経験、役割、再委託関係を客観的資料で確認する必要性を学んだ。設備は遅れて稼働したものの、その後は製品を安定して生産したと聞いている。

執筆者

上原 修

NPO日本サプライマネジメント協会 名誉理事長
CPSM  C.P.M.  MBA  JGA
大前研一ビジネス・ブレークスルー大学大学院 教授
米アリゾナ州立大学CAPS Research 日本チェアー
流通経済大学 客員講師 災害ロジスティックス担当
ヨーロッパ購買経営大学院 European Institute of Purchasing Management 前教授
仏パリESSECビジネススクール 前特任教授

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